植物寄生性線虫が分泌するROS制御因子

「要旨」世界の食糧生産の拡大のため, 作物への植物寄生性線虫による被害防止は喫緊の課題である. 植物は病害虫に対して, 活性酸素種(Reactive Oxygen Species: ROS)を用いて直接的な環境ストレスを与えるとともに, シグナル伝達因子として働くことで免疫応答を誘導する. 農産物・植物性食品であるコムギやトマトには植物寄生性線虫に対する線虫抵抗性を持つ品種があり, それらでは感受性品種と比して, シストセンチュウやネコブセンチュウの寄生部位におけるROS産生が増加する. 一方, 線虫はROSバースト, およびROSによるシグナル伝達を制御するため, 抗酸化機能を持つ様々なエフ...

Ausführliche Beschreibung

Gespeichert in:
Bibliographische Detailangaben
Veröffentlicht in:Functional Food Research 2021-09, Vol.17, p.69-74
Hauptverfasser: 阿波連功, 富成司, 平田美智子, 宮浦千里, 豊田剛己, Florian M.W. Grundler, A. Sylvia S. Schleker, 稲田全規
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
Tags: Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
Beschreibung
Zusammenfassung:「要旨」世界の食糧生産の拡大のため, 作物への植物寄生性線虫による被害防止は喫緊の課題である. 植物は病害虫に対して, 活性酸素種(Reactive Oxygen Species: ROS)を用いて直接的な環境ストレスを与えるとともに, シグナル伝達因子として働くことで免疫応答を誘導する. 農産物・植物性食品であるコムギやトマトには植物寄生性線虫に対する線虫抵抗性を持つ品種があり, それらでは感受性品種と比して, シストセンチュウやネコブセンチュウの寄生部位におけるROS産生が増加する. 一方, 線虫はROSバースト, およびROSによるシグナル伝達を制御するため, 抗酸化機能を持つ様々なエフェクター分子を利用していることが近年の研究により明らかとなっている. 植物性寄生線虫のライフサイクルの一例を示す. 土中で孵化した2期幼虫が根へ侵入後, 植物内を移動し維管束近辺の細胞に定着後, 植物細胞の免疫, 代謝を制御し, そこから栄養を摂取し成長する. 線虫はこの一連の寄生過程において, 様々な酸化ストレスに対処している. 例えば, シロイヌナズナにおいて, Rboh(respiratory burst oxidase homolog)によるROSの産生が線虫の寄生に必要であることが明らかとなっている. 一方, 表皮から抗酸化物質であるペルオキシレドキシンを分泌してROSから表皮を保護し, 寄生部位においてはジスルフィドイソメラーゼとグルタチオンペルオキシダーゼを植物細胞内に分泌し, 直接的にROSを除去している. また, トランスサイレチン様タンパク質は, 植物細胞内の因子と相互作用して間接的に抗酸化作用を示す. 以上の研究より, 線虫は, 植物免疫において重要な役割を果たすROSの産生と除去を精密に制御していることが示唆される. このように, 線虫による植物内のROSの制御機構の一端が明らかになりつつあるが, その寄生メカニズム全体の中での役割は不明な点が多い. その要因として, 植物寄生性線虫のゲノム解析が他の生物と比較して遅延していることが挙げられる. 植物寄生性線虫の防除において, 既存の土壌くん蒸剤などの害虫非特異的な農薬に替わる, 環境負荷の小さい害虫特異的な農薬開発や抵抗性を持つ品種改良が望まれている. これらの実現には植物と害虫の分子的相互作用の解明が不可欠であり, 今後の線虫-植物間の相互作用の解明により, より環境負荷の小さい防除法の開発が期待される. 本総説では, 線虫とROSによる農産物・植物性食品への寄生メカニズムにおける最近の知見を概説する.
ISSN:2432-3357