産科ケア受診の意思決定に影響を及ぼす文化的要因-ニジェールの一農村におけるエスノグラフィー

目的 : 国際社会は妊産婦死亡低減にむけて取組みを活発化させているが、サブサハラなど一部の地域では状況はむしろ悪化傾向にある。本研究では妊産婦死亡率が世界で最も高い国のひとつニジェールで、妊産婦死亡の要因となる3つの遅れのうち産科ケア受診の意思決定に影響を与える文化的要因を明らかにする。 方法 : エスノグラフィーを用い、ニジェールの一農村A村を対象に参与観察、リプロダクティブエイジの出産経験のある既婚女性へのエスノグラフィックインタビュー、2次資料収集を行い、質的に分析した。 結果 : A村では、産科ケア受診の意思決定に【性について口にすることは恥】、【出産は日常生活の延長線上にあるもの】、...

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Veröffentlicht in:国際保健医療 2012/06/20, Vol.27(2), pp.151-164
Hauptverfasser: 堀井, 聡子, 式守, 晴子
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Zusammenfassung:目的 : 国際社会は妊産婦死亡低減にむけて取組みを活発化させているが、サブサハラなど一部の地域では状況はむしろ悪化傾向にある。本研究では妊産婦死亡率が世界で最も高い国のひとつニジェールで、妊産婦死亡の要因となる3つの遅れのうち産科ケア受診の意思決定に影響を与える文化的要因を明らかにする。 方法 : エスノグラフィーを用い、ニジェールの一農村A村を対象に参与観察、リプロダクティブエイジの出産経験のある既婚女性へのエスノグラフィックインタビュー、2次資料収集を行い、質的に分析した。 結果 : A村では、産科ケア受診の意思決定に【性について口にすることは恥】、【出産は日常生活の延長線上にあるもの】、【問題があるときだけは診療所で産む】、【アルベーリ(卓越した大人)が誤ることはない】という価値観が影響していた。性について口にしない価値観は、妊婦が妊娠を周囲に隠す行動様式や公的な性教育機会の欠如に、また出産は日常生活の延長線上で行うもので苦痛に耐えられない人間はアルベーリではないとの考えは、妊婦が異常時に訴えることなく民俗療法で対応し、分娩間際まで労働を継続する一因になっていた。そしてこれらは相互に影響しあい、異常の早期発見や妊産婦健診受診の遅れの要因になっていた。また、妖術を避けるため産婆でさえも分娩に立ち合わないという考えは、介助者を伴わない自宅分娩を助長していた。一方で、妊娠、分娩に際し問題が生じた場合には、妊婦が訴えなくとも拡大家族の年長女性が異常を見極め、診療所受診や施設分娩を促していた。加えて、初産は実家で分娩したり、産後40日間は休息期間を与えられたりするなど、初産婦や褥婦が拡大家族の女性たちからサポートされる慣習があった。また、母子健康手帳を入手するために恥と折り合いをつけて妊産婦健診を受診するなど、価値の変容を示唆する現象がみられた。 結論 : 産科ケア受診の意思決定には文化的に規定される性に関する価値観、分娩の場や異常の概念、年長者を尊重する社会構造等が影響しており、産科ケア受診の遅れの要因になっていた。他方、社会構造や慣習は遅れの要因となるだけでなく、産科ケアを補完する互助機能の側面も有していた。ゆえに、妊産婦の健康向上のためには、既存の保健医療サービスの質を改善し、そのサービスを文化的に形成されてきた出産支援システムに連動させることの重要性が示唆された。
ISSN:0917-6543
DOI:10.11197/jaih.27.151