3. 人工視神経移植

網膜神経節細胞, およびその神経軸索である視神経における障害は, ほぼ不可逆的であり最終的にはアポトーシスという過程を辿る. 網膜色素上皮や視細胞においては移植・再生は動物実験のみならず, ヒトへの応用も試みられ始めている. しかし, 神経節細胞並びに視神経の移植・再生の研究は, 動物実験において一縷の光明が見い出されているものの, 臨床応用への見地からの視神経回路網再構築は未踏の試みと言えよう. 神経節細胞の保護並びに再生の誘導は, 特効的治療法の確立されていない視神経炎を含め, 緑内障も含めた多くの視神経障害疾患における新たな突破口となることが期待される. 視神経においては, 共存する視神...

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Veröffentlicht in:日本耳鼻咽喉科学会会報 2001, Vol.104 (11), p.1109-1110
Hauptverfasser: 根岸久也, 安達恵美子
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:網膜神経節細胞, およびその神経軸索である視神経における障害は, ほぼ不可逆的であり最終的にはアポトーシスという過程を辿る. 網膜色素上皮や視細胞においては移植・再生は動物実験のみならず, ヒトへの応用も試みられ始めている. しかし, 神経節細胞並びに視神経の移植・再生の研究は, 動物実験において一縷の光明が見い出されているものの, 臨床応用への見地からの視神経回路網再構築は未踏の試みと言えよう. 神経節細胞の保護並びに再生の誘導は, 特効的治療法の確立されていない視神経炎を含め, 緑内障も含めた多くの視神経障害疾患における新たな突破口となることが期待される. 視神経においては, 共存する視神経内のダリア細胞が神経線維の再生を阻止する要因であることが示唆されてきた. 視神経とはダリア細胞の構成が全く異なり, Schwann細胞が主要なダリア環境を作っている末梢神経においては, 損傷を受けても旺盛に再生能力を示し機能回復することが分かっている. 末梢神経の移植により損傷視神経の再伸長が誘導されることが見い出され, 盛んに研究が繰り広げられるようになってから約15年になる. 我々は, 末梢神経に含まれるSchwann細胞に再生誘導能が存在すること, さらにSchwann細胞と視神経線維間における形態的・機能的な連結が必須要件であることに着目した. 新生仔ラットの脊髄後根神経節よりSchwann細胞を単離・培養し, 高密度の培養Schwann細胞を含むの環境を作り, さらに細胞外基質成分および各種神経成長因子を加えるなどの操作を加えて人工移植片を作成した. これを損傷視神経へ移植することにより, 網膜神経節細胞の生存, および視神経再生の向上を試みる実験を行ってきた. その結果, このような人為的な環境であっても再生視神経線維はL1, NCAMなどの細胞接着分子を発現させてSchwann細胞と接触し, 足掛かりを得ることによって再伸長していくことを免疫組織化学および電子顕微鏡観察にて確認することができた. またその際に, BDNFやNGFなどの神経成長因子を人工移植片および硝子体中へと投与することにより, 30%前後の視神経再生が誘導可能であることが分かった. さらに, 単に神経線維を伸長すれば機能回復が実現されるものではなく, 中枢投射への再生があって初めて視機能回復につながる. そのため動物レベルにおいて人工移植片を視神経-上丘間に架橋移植を行った. 移植術後2ヵ月目にdiI色素を上位中枢である上丘へと投与し, 再伸長した網膜神経節細胞を逆行性に確認することが可能であった. またその際の再生率は約18%であり, 末梢神経移植と比較し, 遙かに高い再生率を得ることが可能であった. このように生存因子の調節による細胞保護, および人工移植片を用いた視神経再生の人為的制御を駆使することにより視神経回路網の保存と再構築が近い将来可能になるものと期待している.
ISSN:0030-6622