6 乳歯生活根管中間位歯髄切断法に関する臨床病理学的研究
乳歯には永久歯にみられない生理的歯根吸収が存在するために, 歯髄除去療法としては適応症の許される範囲において, できうる限り, 生活歯髄切断法を応用することが望ましい. ところで, 一般に行われている生活歯髄切断法における歯髄の切断部位は根管口付近で実施されている. しかしながら, 我国における小児患者の乳歯髄の罹患状態をみると, 既に炎症が冠部歯髄に留まることなく, 根部歯髄の一部にまでも波及していると思われる症例にしばしば遭遇する. かかる症例といえどもできるだけ根部歯髄を生活したまま保存した方が望ましいことはいうまでもないことである. そこで, 今回演者らは, 生活人間乳歯21例に対し,...
Gespeichert in:
Veröffentlicht in: | 小児歯科学雑誌 1971, Vol.9 (2), p.219-220 |
---|---|
Hauptverfasser: | , |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
Tags: |
Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
|
Zusammenfassung: | 乳歯には永久歯にみられない生理的歯根吸収が存在するために, 歯髄除去療法としては適応症の許される範囲において, できうる限り, 生活歯髄切断法を応用することが望ましい. ところで, 一般に行われている生活歯髄切断法における歯髄の切断部位は根管口付近で実施されている. しかしながら, 我国における小児患者の乳歯髄の罹患状態をみると, 既に炎症が冠部歯髄に留まることなく, 根部歯髄の一部にまでも波及していると思われる症例にしばしば遭遇する. かかる症例といえどもできるだけ根部歯髄を生活したまま保存した方が望ましいことはいうまでもないことである. そこで, 今回演者らは, 生活人間乳歯21例に対し, 根管中間位において, 生活歯髄切断法を実施し, 切断糊剤としては, その優秀性が認められている「カルビタール」を応用し臨床病理学的に詳細に検討した結果興味ある知見を得たのでここに発表する次第である. 実験対象は本学病院小児歯科臨床を訪れた, 年令2才7ヵ月から6才9ヵ月までの15名の小児患者から得られた人間生活乳歯21例である. 臨床的には, これら歯牙は健康歯, あるいは齲蝕症1度ないし2度と診断されたものである. 実験期間は術後1日より366日であった. 実験方法としては, 簡易防湿下あるいはラバーダム防湿下に30万r. p. m. エアータービン及び7,000r. p. m. 電気エンジンを使用し, 通法に従って, ダイヤモンド切削材及びラウンドバーにて髄室の開拡を行い, 次いで洗滌, 消毒後, ロングネックラウンドバーあるいはMullerの歯髄切断用バーにて根管の中間位で歯髄切断を行った. 切断糊剤は関根処方の「カルビタール」を用い, 裏装, 歯冠修復を行い施術を完了した. 実験歯は術前に詳細な臨床診査, レ線診査を行い, 術後も患者にしばしば来院を求め, 自他覚症状の有無及びその経過, 消長などを詳細に観察, 記録した. 次いで, 一定期間後に抜去し, フォルマリン固定, 脱灰, ツェロイジン包埋し, 連続切片標本として, HE染色を施し病理組織学的に検索した. 術後臨床的に不快症状の認められた症例は21例中わずか1例であり, 発現した不快症状は軽度の自発痛で, 術後1日より発現し9日まで持続した. 以後抜去時の218日に至るまでなんらの不快症状も訴えなかった. 以上の所見から臨床成績を判定すると, 全例21例中, 良好20例, 概良0例, 不良1例であった. 次に経過日数別に病変の発現状況をみると, 認められた主な病変は出血, 充血, 円形細胞浸潤, 化膿, 壊死, 瘢痕化, 象牙質牆基質の形成, 象牙質牆の形成であった. 本法応用後, 多くの乳歯髄は短期間において, すでに瘢痕化傾向を示し, 実験期間の延長に伴い大多数の症例は瘢痕治癒していた. 更に1例を除いた全例において, 象牙質牆基質ないしは象牙質牆の形成が認められた. これに対し炎症性変化は少数例に発現し, しかもその程度は軽度のものが大多数であった. しかし, 全例に切断面表層の一部壊死が認められた. また, わずか1例であるが, 内部吸収が観察された. 本例はレ線的には一度完全な象牙質牆の形成を認めたが, 標本作製時点において牆が殆ど消失していた. 以上の所見から病理成績を判定すると, 良好18例, 概良2例, 不良1例であった. 以上要するに「カルビタール」を用いての乳歯生活根管中間位歯髄切断法は臨床的には不快症状を殆ど惹起せず, また病理組織学的には瘢痕治癒及び硬組織形成を促進し, しかも乳歯の生理的歯根吸収に対しても何ら悪影響を及ぼさず, 極めて優秀な処置法であることを確認できた. このような事実から「カルビタール」応用による乳歯生活根管中間位歯髄切断法は臨床的応用価値大なるものと思われた. |
---|---|
ISSN: | 0583-1199 |