日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷 (その29) ブラジル薬局方に収載されたパッシフローラの規格・試験法の変遷および2000年以降の海外の学術文献に見られたパッシフローラ属の植物化学成分組成とその生物学的活性効果への影響について

「要旨」「目的」 : わが国市場で, 流通しているPassifloraの基原植物はおおむねP. incarnataと想定される. しかし一部にP. edulisが混在している可能性が報告された. P. incarnataは鎮静剤として最もよく知られている種である. それはブラジルをはじめ北米南部, 中米から南部にかけて分布している. そして西欧では, 古くから植物療法に使われてきた. 一方, P. edulisは多くの国で, 食用果実として栽培され, ブラジルは世界最大の原産国である. また薬用として, 近年のブラジル薬局方のFB5 (2010) およびFB6 (2019) に収載されている....

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Veröffentlicht in:薬史学雑誌 2023-12, Vol.58 (2), p.110-127
1. Verfasser: 柳沢清久
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:「要旨」「目的」 : わが国市場で, 流通しているPassifloraの基原植物はおおむねP. incarnataと想定される. しかし一部にP. edulisが混在している可能性が報告された. P. incarnataは鎮静剤として最もよく知られている種である. それはブラジルをはじめ北米南部, 中米から南部にかけて分布している. そして西欧では, 古くから植物療法に使われてきた. 一方, P. edulisは多くの国で, 食用果実として栽培され, ブラジルは世界最大の原産国である. また薬用として, 近年のブラジル薬局方のFB5 (2010) およびFB6 (2019) に収載されている. さらにそれには, P. alataも収載されている. ブラジルでは, P. alataが古くから鎮静剤, 抗不安薬の植物療法に使われてきた. そこで今回はFB1 (1929) ~FB6 (2019) に収載されたPassifloraの規格・試験法の変遷について調査した. さらに近年, 2000年以降, Passifloraに関する海外の学術文献を抽出し, P. edulis, P. alataの植物化学成分, 生物学的活性効果について調査を行った. そして両種がP. incarnataと同様の生物学的活性効果を発揮できる可能性, さらに代替品の可能性について考察した. 「方法」 : 1) FB1 (1929) ~FB6 (2019) に収載されたP. edulisおよびP. alataを基原としたPassifloraの規格・試験法の変遷の調査を行った. 2) 近年, 2000年以降の, P. incarnata, P. edulis, P. alataを基原植物としたPassifloraに関する海外の学術文献を抽出した. そしてP. edulis, P. alataの植物化学成分組成に関して, 両種間における違い, 分析化学技術の進歩による変遷, 生物学的活性効果への影響について, 検証を行った. 「結果」 : 1) FB5 (2010), FB6 (2019) では, 従来のP. alataと新たなP. edulisを基原植物とした2種のPassifloraが収載された. その規格・試験法の調査から, 両種間における化学的成分組成に大きな違いあることがわかった. P. edulisのフラボノイド成分組成の複雑さに対して, P. alataが単純であることがわかった. またP. alataは, P. edulisよりもサポニンを多く含んでいることもわかった. 2) 近年, 2000年以降のPassifloraに関する海外の学術文献から, 定性分析結果として, P. edulis, P. alataなどのPassiflora sp. には, 幅広い種類のフラボノイドが観察された. P. edulisはP. alataの約2倍のフラボノイドを含有し, それに比例して, 約2倍の抗酸化活性を有することが示された. P. edulisはP. alataよりもフラボノイド成分組成が複雑である. UPLC-IM-MSはUPLC-MSプロダクトスペクトルに直交した断面解析により, 異性体ペアの検出を含めて, その複雑さを明確化した. P. alataはP. edulisのフラボノイド成分組成プロファイルよりも単純であるが, サポニンを多く含有している. 「結論」 : P. edulisとP. alataの両種はP. incarnataと同様に, 豊富なフラボノイド (ポリフェノール) などの生物活性物質の存在により, 抗酸化活性などの生物学的活性を示している. 両種は鎮静剤, 抗不安薬などの植物療法の他に, フラボノイド (ポリフェノール) などの抗酸化物質の重要な供給源となり, 天然のフィトケミカルの供給源として, 今後, 展開していく可能性が考えられる. そして両種について, 成分的, 薬理的観点から, P. incarnataの代替品として, 医薬品, 健康食品への配合の可能性を検証することが, 今後の課題と考える.
ISSN:0285-2314