A5. 乳児neglectにおける治療戦略の検討

背景:2000年に児童虐待防止法が成立し, 以降児童相談所への虐待通告件数は増加を続け, いわば児童虐待の社会的発見がなされた. 児童相談所の権限は強化され, 虐待が疑われる家庭への強制的立ち入り調査, 強制的な親子分離や親権の剥奪なども可能となった. そのため, 虐待への対応は, それまでの悩みを持った人の相談に乗る調整型から, 必要なら親と対決して子供を引き離してでも命を救うという介入型に一挙に進んだ. しかし, 虐待の最重症型といわれる乳児neglectにさえ, 児童相談所は, 『児童虐待家族の構造的病理』に対し, いまだ積極的介入が様々な理由により困難である. 症例:生後6ヵ月男児....

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Veröffentlicht in:東京慈恵会医科大学雑誌 2009, Vol.124 (1), p.38-38
Hauptverfasser: 布山裕一, 山田哲史, 若林太一, 松浦隆樹, 村山静子, 南波広行, 大坪主税, 大島早希子, 高畠典子, 和田靖之, 久保政勝, 鈴木志保, 荒川久美子, 小林可奈, 渋谷有佳里, 丸尾さやか
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:背景:2000年に児童虐待防止法が成立し, 以降児童相談所への虐待通告件数は増加を続け, いわば児童虐待の社会的発見がなされた. 児童相談所の権限は強化され, 虐待が疑われる家庭への強制的立ち入り調査, 強制的な親子分離や親権の剥奪なども可能となった. そのため, 虐待への対応は, それまでの悩みを持った人の相談に乗る調整型から, 必要なら親と対決して子供を引き離してでも命を救うという介入型に一挙に進んだ. しかし, 虐待の最重症型といわれる乳児neglectにさえ, 児童相談所は, 『児童虐待家族の構造的病理』に対し, いまだ積極的介入が様々な理由により困難である. 症例:生後6ヵ月男児. 前医受診時, 体重増加不良, 着衣の汚染, 母親の養育困難の訴えより, neglectを疑い, 児童相談所に通告. しかし, 虐待の有無の判断を回避し, 体重増加不良を主訴に当院救急外来に紹介受診, 入院となった. 入院後, 成長発達のcatch upがみられた. 当科はneglectと診断し, 一時保護による親子分離の上家族の再統合を目指すも, 児童相談所の判断は否であった. 地域の育児環境を調整したうえで退院となる. しかし, 退院後家族が当科外来受診せず, 児童福祉士の訪問も回避し, 子どもの安否が危ぶまれた. 自宅の水道・電気・ガスをとめられたため, 生後11ヵ月に親子分離を決定し, 乳児院送致となった. 考察:積極介入を回避し, 児の安全が守れなかった症例を経験した. 児童虐待家族は, 多様な問題が複合的に作用し構造的背景を伴っている. そのため, 問題解決には, 児童の安全確保の上, 親子の再統合を図ることが唯一である. しかし, 現状の児童相談所のみでは, 対応困難であり, 病院を含めた連携施設との協働が必須である. 我々は, 家族への治療的アプローチモデルを検討し構築することが, 乳児neglectにおける児童相談所の一時保護委託を含めた積極的介入への援助になると考えている.
ISSN:0375-9172