A3. 孤立性逆行性健忘の1例
はじめに:健忘症は障害された記憶の各要素により様々に分類されている. また各要素の障害が独立して存在することより, 記憶の各要素がそれぞれ異なった脳の機構系に支配されていることも示唆されている. 我々は脳震盪後に一過性の前向性健忘と約3年間分の逆向性健忘がみられ, SPECTにおいて特徴的な所見がみられた症例を経験した. 本症例は健忘の発生機序を考える上でも貴重な報告と思われ, 若干の文献的考察を加え報告する. 症例:13歳(中学2年生)の女児(右利き)で, 既往歴家族歴に特記事項はない. 入院当日に, 通学途中の最寄り駅の階段でうずくまっているところを駅員に発見された. 外傷はみられなかった...
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Veröffentlicht in: | 東京慈恵会医科大学雑誌 2005, Vol.120 (3), p.132-133 |
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Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | はじめに:健忘症は障害された記憶の各要素により様々に分類されている. また各要素の障害が独立して存在することより, 記憶の各要素がそれぞれ異なった脳の機構系に支配されていることも示唆されている. 我々は脳震盪後に一過性の前向性健忘と約3年間分の逆向性健忘がみられ, SPECTにおいて特徴的な所見がみられた症例を経験した. 本症例は健忘の発生機序を考える上でも貴重な報告と思われ, 若干の文献的考察を加え報告する. 症例:13歳(中学2年生)の女児(右利き)で, 既往歴家族歴に特記事項はない. 入院当日に, 通学途中の最寄り駅の階段でうずくまっているところを駅員に発見された. 外傷はみられなかったが, 制服や頭髪に転倒を推測させる汚れがみられた. 意識はほぼ清明で意思の疎通は可能であり自分の名前も言えるが, 自分を10歳の小学5年生と認識しており, 頭部打撲による逆行性健忘が疑われ当院に救急搬送された. 身体所見:意識は清明で, 神経学的に明らかな異常はみられなかった. 場所や両親などの認識は可能であったが, 駅構内や救急車内での出来事は覚えていなかった. 検査所見:入院翌日のSPECTでは視床と角回の低潅流がみられた. 1ヵ月後のSPECTでは視床の低潅流はみられず, 角回の低潅流は継続してみられた. その他, 頭部MRI, 脳波, MRA, 血液検査などで, 明らかな異常はみられなかった. 症状経過:前向性健忘は受傷時から来院までの数時間のみみられたが, その後消失している. 過去3年間の逆行性健忘は, 発症より1年経った現在も継続してみられている. 考察:前行性健忘と逆行性健忘は独立して生じ得ることより, 両者が異なる神経基盤の損傷によって生じている可能性が強く示唆された. また, 過去の報告を含めた検討により, 前行性健忘の発症には視床が関与し, 逆行性健忘の病巣は側頭葉のみならず多焦点性である可能性が示唆された. |
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ISSN: | 0375-9172 |