免疫不全モデル動物を用いたヒト肝癌の正所性移植モデル作製の試み

目的:ヌードマウスなどの免疫不全動物に癌細胞あるいは組織を移植し, 腫瘍の性状や治療法を検討する研究が多く行われている. これらの担癌モデルにおいて腫瘍細胞の移植位置はもっぱら肩背部や大腿部の皮下であることが多く, この理由として腫瘍の発育状態や目的とする処置後の経過観察が容易であることが挙げられる. しかしながら, その腫瘍の由来と異なった場所に移植(ectopic transplantation:異所性移植)することは, 特徴を持った腫瘍の発育に必要な成長因子が欠乏するなど生理学的条件に不利な場合が多く, また周囲の血管構造など, 解剖学的にも必ずしも有利とは言えず, しばしば移植した腫瘍...

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Hauptverfasser: 成相孝一, 塚田陽子, 宇賀英子, 馬橋康雄, 吉川哲矢, 高橋弘
Format: Tagungsbericht
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:目的:ヌードマウスなどの免疫不全動物に癌細胞あるいは組織を移植し, 腫瘍の性状や治療法を検討する研究が多く行われている. これらの担癌モデルにおいて腫瘍細胞の移植位置はもっぱら肩背部や大腿部の皮下であることが多く, この理由として腫瘍の発育状態や目的とする処置後の経過観察が容易であることが挙げられる. しかしながら, その腫瘍の由来と異なった場所に移植(ectopic transplantation:異所性移植)することは, 特徴を持った腫瘍の発育に必要な成長因子が欠乏するなど生理学的条件に不利な場合が多く, また周囲の血管構造など, 解剖学的にも必ずしも有利とは言えず, しばしば移植した腫瘍が生着に至らなかったり, 成長が遅いといったアクシデントに遭遇することが多い. そこで我々は従来, もっぱら皮下に移植されていたヒト肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)を本来発生, 発育する場である肝臓に移植する正所性移植(orthotopic transplantation)モデルの作製を試み, その有用性とこのモデルを用いるにあたっての今後の課題について検討した. 方法:BALB/cA-nu/nu(ヌードマウス)の6週齢雌マウスに3GyのX線照射を行い, 3日後にイソフルレンによる吸入麻酔下で剣状突起から後方に5~7mm程度の開腹を施し肝臓を露出した. 露出した肝臓の漿膜下に無血清DMEMで2×10 7/mlに調製した株化ヒト肝細胞癌であるHuh-7の細胞懸濁液25μlをインシュリンシリンジを用いて移植し閉腹した. マウスは移植より45日で安楽死させ作製された腫瘍の所見を観察した. 結果および今後の課題:9例のモデルを作製したが, 1例については移植7日後に死亡した. この個体は術中に過量出血をみたものであった. 他については1例が移植後38日後に腹囲膨満を伴い死亡し, 剖検の結果, 移植部位に直径約28mm(腫瘍重量8,308.4mg)の巨大な腫瘍塊を認め, この腫瘍塊の一部が開裂していたこと, および血清腹水の高度な貯留が認められたことより, 腫瘍の破裂による失血あるいは循環不全にともなう心不全による死亡と考えられた. 移植後45日で剖検した7例においても直径9~13mm, 平均腫瘍重量は1,555.1mgの腫瘍を認め, 肝細胞癌の正所性移植における速やかな発育が確められた. 現時点では皮下モデルと異なり腫瘍の発育をリアルタイムに計測することが難しく, 今後, 超音波画像診断やAFPなどの生化学的指標を応用した経過観察法を検討したいと考えている.
ISSN:0375-9172