4－6. 難治性疾患クローン病の治療と食事療法

Crohn病は1932年, Crohnらが14例の区域性小腸炎を報告して以来すでに60年経過しているが, いまだに原因不明の難治性疾患である. 口腔より肛門までの, 全消化管を侵す非特異的肉芽腫性炎症疾患であり, とくに問題となるのは症状が改善された後, 普通の食事にもどすと, 短期間で再び活動期に入り再燃することである. 発症年齢は10歳代後半から20歳代であり, 現在約1万人が治療を受けているといわれている. 今回症例を交えながら, 我々が行っている食事療法を中心として報告する. クローン病は, 血液生化学検査・X線像・内視鏡・生検所見などで診断され, とくに生検によるサルコロイド様, 非乾酪性肉芽腫の証明が必須とされている. 臨床症状は笹川らの報告によると, 腹痛81.4％, 全身倦怠感57.9％, 下痢57.4％が三大症状となっており, 下血, 発熱, 体重減少, 貧血, 等が続いている. クローン病の治療には栄養療法・薬物療法・外科療法がある. 補助栄養剤として, クローン病には主としてエレンタールを使用しているが, その理由は, ほかの栄養剤に比べて脂肪が少ないからである. 制限のない普通の食事にもどすと, 再燃することがしばしばであるが, これはおもにn－6系多価不飽和脂肪酸が増えるからだと言われている. 成分栄養剤とクローン病食を組合せ, n－6系脂肪酸を制限し, n－3系脂肪酸の割合を増やすことが再燃予防に有用である. 牛肉・豚肉・ハム・ベーコン・バター・マーガリン・マヨネーズ・紅花油などn－6系脂肪酸を多く含む食品を禁止または制限する. 反対に, いわし・さば・さんま・ぶり・あじなど青みの魚や, しそ油・なたね油・エゴマ油などn－3系脂肪酸を多く含む食品を, 脂肪制限の範囲内で摂取させる. 当院で経験したクローン病の1例を報告する. 22歳男性A氏は, 平成6年10月頃より, 水様性下痢を週に1～2回程度認めるようになった. 平成7年1月より下痢の回数が頻回になり, 時々鮮血便も出現し, また, 半年間で17kg体重減少を認めたため, 同年2月当院内科受診となった. 検査データでは, 極度の貧血, 肝障害, 炎症所見を認めている. 入院後の経過は, 入院時30mgであったが, 増悪を認めたため60mgに増量し, 徐々に減らした. 現在は再発を認めず10mgまで減量し, 外来通院中である. 入院中のS状結腸の大腸鏡所見では, 深掘れした易出血性潰瘍を認めたが, 平成7年8月の同部位の大腸鏡所見では, 潰瘍は消失し, 瘢痕を残すのみとなった. 退院時の栄養指導指示内容は, エレンタール 900Kcal, クローン病食1100Kcal, 合計2,000Kcal, 脂肪30gであった. 体重の変化は平成7年1月35kg, 5月退院時44kg, 7月49kg, 現在49kgの体重を維持している. A氏は大学4年生で通学しているが, 昼食も含め, 3食とも母親の手作りの食事を食べている. 退院後7ヵ月経過しているが, 現在下痢や腹痛などの自覚症状は出ていない. 今後再燃しないように十分気をつけながら, 少しずつ食べられる食品の数を増やすように母親を含めて指導していきたいと思っている.