II-3群:言語発達遅滞(1)

演題28(中島)は,表出面での言語習得過程が特異的であった学習障害児の1例について報告した. これに対して, 若佐(豊中市立教育研究所)よりKABCの継次処理の中で視覚系と聴覚系に差はなかったかとの質問があり, 中島はK-ABCからその差を直接的に導き出せないが, 他の情報から視覚系のほうが優れていたと判断していると答えた. 岩瀬(大宮小児保健センター)からはITPAで「文の構成」が低値だったのは構音の問題なのか, それとも聴理解の問題なのかとの質問があり, これに対してITPAは構音障害が改善した段階で行った. 「文の構成」が低値なのは, 語音の音韻認知が障害されているために生じたものと考え...

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Bibliographische Detailangaben
Veröffentlicht in:聴能言語学研究 1995, Vol.12 (2), p.113-114
1. Verfasser: 林耕司
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:演題28(中島)は,表出面での言語習得過程が特異的であった学習障害児の1例について報告した. これに対して, 若佐(豊中市立教育研究所)よりKABCの継次処理の中で視覚系と聴覚系に差はなかったかとの質問があり, 中島はK-ABCからその差を直接的に導き出せないが, 他の情報から視覚系のほうが優れていたと判断していると答えた. 岩瀬(大宮小児保健センター)からはITPAで「文の構成」が低値だったのは構音の問題なのか, それとも聴理解の問題なのかとの質問があり, これに対してITPAは構音障害が改善した段階で行った. 「文の構成」が低値なのは, 語音の音韻認知が障害されているために生じたものと考えているとの応答があった. 武田(盛岡市立病院)からは滲出性中耳炎等の既往歴はなかったかとの質問があり, 母からの情報では耳疾患はなかったとの応答があった. 演題29(普山ら)は, LD児童48名に「新版S-M社会能力検査」を実施した結果を報告した. 古川(長野県立こども病院)より, 実際にはどんな訓練をしているのか, LD判定にはどんな評価法を用いているのかという質問があった. これに対し, 国語教室では生活に必要な国語, 特に日常に使われている言葉の意味を知ること, 場面の読みとりや状況画からの状況判断, 質問をつくることなどを, 幼児に対しては表情の読みとりや指人形でのロールプレイを, 算数教室では生活に必要な数概念の指導などを行っている. また, LDの判定は行動特性の質問紙, 神経学的微症状の観察, 既存の諸検査, 子どもとの面接場面の観察などに基づいていると応答があった. 演題30(三宅ら)は, 意味理解が困難な学習障害の要素をもつ1症例に対する絵や文字などの視覚的手がかりを用いた言語訓練を報告した. 盛(川崎市立麻生小学校)より, ことばの類推に問題を残しているが, それに対しては具体的にはどのような学習を進める予定なのかと質問があった. これに対し, 対語(夏は暑い, 冬は寒い)をパターンで教えることはできるが, 応用場面で使えることを教えるのは難しい. 現在は, 指導プログラムの1つとして, なぞなぞの練習をしており, 答えたり質問したりできるようになってきているとの応答があった. また, 山見(角谷整形外科)より, 歌の歌詞の獲得には問題はなかったか, 斉藤(柏市言語指導室)より, いつどのように学習障害と判定するのかと質問があった. これに対し, 歌詞の獲得は幼児期から特に問題なかった, また本児の場合教科学習上の問題はまだ出ていないが, 幼児期に視覚系より聴覚系のほうが良い傾向がはっきりみられたのでLD要素ありと判断したとの応答があった. 演題31(永安ら)は省略置換歪みなどの誤りが顕著な機能的構音障害児の指導経過を報告した. 飯高(東京学芸大学)より, 初期の読み習得においては音韻分解抽出能力が必要であることを原ら(演題21)は報告し, 1970年の天野の知見を再確認した. この指導で, まず文字の指導から入って音韻分解抽出を後にした背景は何かとの質問があった. これに対して4歳半の指導開始時すでに10文字程度の読みが可能だったので, 文字の読み指導を開始した. しかし, その後読み可能な文字の伸びが悪かったので, 音韻分解抽出訓練を開始したとの応答があった. 文字記号を構音指導の手がかりとして用いたのかとの質問に対しては, そうだと答えた. 本群では, 学習障害児およびその周辺群の問題に関する報告が3題, 機能的構音障害に関する報告が1題発表された. 学習障害児の問題は今後さらに深くとらえられていく必要があるが, 演題28で行われたような言語習得過程への分析的視点, 演題29で行われたような視覚的補いの視点からの報告は貴重な報告といえるだろう. また, 学習障害をどのように診断していくのかという質問も2つあったが, 学習障害の診断にはDSM-III-Rの基準を用いるのがわかりやすいように思われる. この基準では学習障害を1. academic skills disorders(学習能力障害) 2. language and speech disorders(言語および話し言葉の障害) 3. motor skills disorders(運動能力障害) 4. その他に分け, それぞれをさらにサブタイプ分類している. この基準に沿ってまず学習障害をタイプ分類し, 本群で発表されたような臨床考察を重ねていくことが必要なのではないだろうか. 本学会誌(Vol. 11, No. 2)にも大石氏による学習障害の総説が掲載されたが, さらに活発な議論を期待したい.
ISSN:0912-8204