4)転写因子C/FBPdeltaによる慢性骨髄性白血病細胞のG0/G1細胞周期停止誘導の解析

癌化の原因には, 増殖異常だけでなく正常分化の破綻もしばしば問題となる. 特に正常血液幹細胞の好中球, 単球分化の異常は白血病の発症に深くかかわっており, このメカニズムを明らかにすることは白血病の新しい治療の開発に大変重要な意味を持つ. 骨髄球系への分化にはある特別なtranscriptional factorの活性化や発現が必要である. そのひとつとして多能性幹細胞から好中球への分化に必要なCCAAT enhancer binding protein alpha(C/EBPα)があるが, 最近ある種の急性骨髄性白血病や慢性骨髄性白血病での分化異常にその機能破綻が関与しているという報告がある...

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Veröffentlicht in:Journal of Nippon Medical School 2003, Vol.70 (6), p.571-571
1. Verfasser: 田野崎栄
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Zusammenfassung:癌化の原因には, 増殖異常だけでなく正常分化の破綻もしばしば問題となる. 特に正常血液幹細胞の好中球, 単球分化の異常は白血病の発症に深くかかわっており, このメカニズムを明らかにすることは白血病の新しい治療の開発に大変重要な意味を持つ. 骨髄球系への分化にはある特別なtranscriptional factorの活性化や発現が必要である. そのひとつとして多能性幹細胞から好中球への分化に必要なCCAAT enhancer binding protein alpha(C/EBPα)があるが, 最近ある種の急性骨髄性白血病や慢性骨髄性白血病での分化異常にその機能破綻が関与しているという報告がある. しかしながらほかのC/EBP familyの血液疾患に対する関与はまだ明らかにされてない. そのひとつであるCCAAT enhancer binding protein delta(C/EBPδ)は, 正常骨髄細胞における分化過程において徐々に増加していくという報告があり, また急性白血病細胞株と異なり慢性骨髄性白血病急性転化からの樹立細胞株KCL22, K562においてC/EBPδの機能発現が消失しており慢性骨髄性白血病急性転化病態との関連が強く考えられる. 目的:我々はCCAAT enhancer binding protein delta(C/EBPδ)の血液細胞における役割をC/EBPα, δ機能発現のない慢性骨髄性白血病急性転化からの樹立細胞株KCL22を使い検討した. 方法, 結果:KCL22にZnによる発現誘導vectorを使いC/EBPδを強制発現させた. ウエスタンブロット法および免疫蛍光色素染色により核にC/EBPδの発現を確認した. Zn添加後C/EBPδの発現とともにKCL22は好中球様形態変化(核の濃縮, 分葉化)を示した. コントロール細胞に比較し増殖が抑えられ, 細胞周期解析によりG0/G1 arrestを起こしていることが判明した. またtunnel assayではアポトーシスは有意には, 生じていなかった. 好中球様形態変化が分化を示しているかを調べるために好中球2次顆粒遺伝子の発現をRT-PCR法により検討したその結果, 好中球collageneseの発現は誘導されたがlactoferrinの発現は生じなかった. さらにNBT還元能(-), CD13(-)であった. 種々の細胞周期蛋白の発現をウエスタンブロット法で解析したところ, その過程は細胞周期制御因子p27 kip1の発現にともなっていた. さらにp27 kip1の上流にある転写因子forkhead in rhabdomyosarcoma(FKHR)が脱リン酸化されることがわかった. また免疫沈降法を使いC/EBPδが直接E2F1, Rbと結合することも突き止めた. 考案:C/EBPδによる慢性骨髄性白血病急性転化からの樹立細胞株KCL22細胞のG0/G1 arrestの機序としてはforkhead in rhabdomyosarcoma(FKHR)の脱リン酸化によるp27kip1を介したもの, またE2F1, Rbへの直接作用によることが示唆された. C/EBPδによる好中球様形態変化は不完全な分化を誘導したものと考えられた. 以上からC/EBPδの骨髄球の細胞分化や慢性骨髄性白血病急性転化の病態への関与も考えられた. 今後の展望:血液疾患とC/EBPαおよびεのかかわりが報告されているがC/EBPδとの報告はなく, またC/EBPδと正常組織の分化に関する報告はあるが, 悪性疾患の病態との関係を明らかにした報告はない. また骨髄球細胞における分化へのCCAAT enhancer binding proteinのかかわりは最近注目されておりC/EBPδの消失が骨髄性白血病急性転化のひとつの要因とわかればC/EBPδやその関連遺伝子を急性転化のマーカーとして早期発見や予後の指標とでき, さらには遺伝子機能発現消失の機序がわかれば治療への応用が可能であると考えられる.
ISSN:1345-4676