原発性肺門縦隔リンパ節癌

癌専門医が疑問に思う症例の一つに原発巣不明癌がある. すなわち, 脳転移, 骨転移など転移巣が発見されるが, 原発巣が不明な症例である. こうした症例の多くは原発巣が小さいため現在の医学では特定できない症例と考えられている. しかし, 中にはこうした考えでは説明のつかない症例もある. 筆者も以前原発巣不明縦隔リンパ節癌を報告した. この症例は縦隔腫瘍の診断で摘出したところ癌腫を含むリンパ節であった. 原発巣を特定すべく全身のCT, 消化管内視鏡検査, 超音波検査, シンチグラフィー, ERCPまで行われたが異常なく, 結局原発巣を特定できなかった. この症例は現在も術後12年以上非担癌生存中で...

Ausführliche Beschreibung

Gespeichert in:
Bibliographische Detailangaben
Veröffentlicht in:Journal of Nippon Medical School 2000, Vol.67(4), pp.301-301
Hauptverfasser: 真崎, 義隆, 五味淵, 誠
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
Tags: Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
Beschreibung
Zusammenfassung:癌専門医が疑問に思う症例の一つに原発巣不明癌がある. すなわち, 脳転移, 骨転移など転移巣が発見されるが, 原発巣が不明な症例である. こうした症例の多くは原発巣が小さいため現在の医学では特定できない症例と考えられている. しかし, 中にはこうした考えでは説明のつかない症例もある. 筆者も以前原発巣不明縦隔リンパ節癌を報告した. この症例は縦隔腫瘍の診断で摘出したところ癌腫を含むリンパ節であった. 原発巣を特定すべく全身のCT, 消化管内視鏡検査, 超音波検査, シンチグラフィー, ERCPまで行われたが異常なく, 結局原発巣を特定できなかった. この症例は現在も術後12年以上非担癌生存中である. この症例の原発巣を肺とすると肺癌病期はStageIIIAで治癒切除を行った症例でも5年生存率は10%程度である. 肺葉切除がなされていないこの症例は絶対的非治癒切除となるが, 病理病期がstageIIIAで絶対的非治癒切除肺癌症例の良好な予後は考えにくい. 縦隔リンパ節へ転移する癌の原発巣としては肺が最も多いが, これ以外に縦隔へのリンパ流入路を考えると, 1)腹腔動脈周囲リンパ節から流入するsternodiaphragmaticlymph channel, 2)後腹膜リンパ節から流入する胸管経路, 3)頸部リンパ節から逆流するbronchomedastinaltrunkがあるとされている. したがって消化器, 泌尿器, 生殖器, さらに咽頭なども原発巣となりうる. しかし, 肺以外の臓器からの転移とすると末期癌に相当するが, にもかかわらず予後良好なのはなぜか?, さらに原発巣が肺であれ他臓器であれ長期の経過にかかわらずなぜ原発巣が成長し発見されないのか?, また筆者の経験した症例は極めてまれな症例なのか?. 原発巣不明の肺門, 縦隔リンパ節癌は丹念に報告例を集めてみると現在40例以上あり, 多くは予後良好(36例の集計では担癌死5例, 最高9年非担癌生存, 平均28.9ヵ月非担癌生存)であった. リンパ節転移も含めて骨転移, 脳転移, 皮膚転移などで発見される原発巣不明癌(一般的原発巣不明癌)全体の予後は2年生存率8.7~10.4%, 5年生存率2~6%平均生存期間2~7ヵ月と極めて不良であることを考え合わせると, 原発巣不明肺門縦隔リンパ節癌は肺癌やその他の一般的原発巣不明癌とも異なる特異な臨床経過をとると考えられる. この理由には2つの可能性が考えられる. 一つは原発巣の自然退縮の可能性である. 癌の自然退縮に関する報告は少ないが, Eversonらは世界中の自然退縮報告1,000例以上を再検討した, 176例をまとめて報告している. これによると癌の自然退縮例があること, そしてその退縮の大部分は一時的な退縮とみなされるが, 完全治癒例もあるとしている. いずれにしろ癌の自然退縮はきわめてまれな現象と考えられる. しかし, 仮に肺門縦隔リンパ節の癌腫を転移とすると, 実際には原発巣の自然退縮が意外に多いということになろう. もう一つは縦隔リンパ節に癌が原発した可能性である. だが発生学上リンパ節に上皮組織は含まれず, 癌の発生論上奇異である. しかし, 1975年Tomasinoらは上皮を含む顎下腺領域のリンパ節を報告し, 1987年Lunaらはリンパ節から発生した唾液腺様腫瘍を報告している. さらに1995年Kohdonoらは異所性上皮を伴う縦隔リンパ節の癌腫を報告している. つまりリンパ節に癌が発生する可能性を検討する余地がある. また, 縦隔は発生学的に鰓弓性臓器を含むことと縦隔リンパ節の癌腫は関係あると北川(富山医科薬科大学, 第一病理学)は指摘している. 鰓弓性臓器に発生する腫瘍にはリンパ上皮腫, Warthin腫瘍, Mikulicz症候群, 鰓弓原性癌, 胸腺腫などがあるが, これらはいずれも上皮とリンパ組織とが一体となった腫瘍である. すなわち, 鰓弓性臓器には上皮成分とリンパ組織が種々の割合, 悪性度で混在する腫瘍が多く発生していると捉えることができるのである. こうしてみると原発巣不明のリンパ節転移癌症例の大半が頸部リンパ節であることも注目される. 言い換えると鰓弓性臓器の所属リンパ節である頸部リンパ節には原発巣不明の癌腫症例が多い. その上予後不良な一般的原発巣不明癌の中で例外的に予後良好なのはリンパ節転移癌で, 原発巣不明癌の5年生存例の75%を占めている. この大半は頸部リンパ節の癌腫症例である. 以上, 原発巣不明肺門縦隔リンパ節癌の論点をまとめると, 1)転移とすると全身検索, 経過観察で原発巣が明らかとなるはずであるが, 不明のままである, 2)他に転移がない場合リンパ節切除だけであたかも原発巣を切除したがごとく予後良好である, 3)リンパ節に上皮が存在することがある, 4)縦隔には鰓弓性臓器があり, 鰓弓性臓器には上皮とリンパ組織とが一体となった腫瘍が多く発生している, 5)原発巣不明リンパ節癌の多くは鰓弓性臓器である頸部に発生している. 以上のことは肺門, 縦隔, 頸部リンパ節には, 迷入など何らかの原因で存在した上皮成分から癌が原発する可能性を示唆している. ただしリンパ節からの癌発生は鰓弓性臓器の領域に限り, 全身のリンパ節に当てはまるものではないと考えられる. 事実リンパ節内の上皮の存在に関する前記報告は, いずれも鰓弓性臓器の領域リンパ節である. すなわち, 1)肺門縦隔リンパ節にのみ癌が存在している, 2)全身精査しても原発巣が不明である, 3)長期に観察しても原発巣が出現しない, を満たすものは「原発性肺門縦隔リンパ節癌」という疾患として捉えることができる. 我々はこうした点を踏まえてリンパ節に癌が原発する可能性について研究を進めている. (受付:2000年2月21日)(受理:2000年3月8日)
ISSN:1345-4676
1347-3409
DOI:10.1272/jnms.67.301