運動処方の基礎(教育講演II)(第43回日本心身医学会九州地方会演題抄録(1))
適度な運動が健康の維持増進に役立つことは, 万人の認めるところであるが, どのような運動を, どのくらいすればよいかということになると, 明確な規定が困難であった. 健康を保つために必要な運動に関して, 運動生理学は, その輪郭をかなり明瞭に描くことを可能にした. 健康づくりのための運動には基本的に, 安全であること, 効果の高いこと, そして楽しめる内容であることの3つの条件が必要である. スポーツの安全性や有効性は, 種目別にも検討されなければならないであろうが, 運動強度や身体条件(体力の程度や健康の状態)との関連は, さらに重要である. これ以上の運動には危険の可能性があるという運動強...
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Veröffentlicht in: | 心身医学 2005/02/01, Vol.45(2), pp.152-154 |
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1. Verfasser: | |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | 適度な運動が健康の維持増進に役立つことは, 万人の認めるところであるが, どのような運動を, どのくらいすればよいかということになると, 明確な規定が困難であった. 健康を保つために必要な運動に関して, 運動生理学は, その輪郭をかなり明瞭に描くことを可能にした. 健康づくりのための運動には基本的に, 安全であること, 効果の高いこと, そして楽しめる内容であることの3つの条件が必要である. スポーツの安全性や有効性は, 種目別にも検討されなければならないであろうが, 運動強度や身体条件(体力の程度や健康の状態)との関連は, さらに重要である. これ以上の運動には危険の可能性があるという運動強度あるいは運動量の限界を「安全限界」とよび, これ以下の運動では効果が少ないという限界を「有効限界」という. 安全限界も有効限界も, ともに身体条件によって左右される. 一般的にいえば, 両限界とも, 身体条件の劣る者ほど低く, それの優る者ほど高い傾向がある. 健康上の問題を抱える人, 体力の弱い人, あるいは高齢者では, 許容される運動条件は非常に限られたものであり, 運動処方にあたっては運動の内容を厳しく規定する必要がある. 身体条件のすぐれている人では, 自由度が大きく, 運動の内容をそれほど厳しく規定する必要はない. 国際マラソンのテレビ中継をみていると, 肥満した選手が走ってくることはない. 呼吸循環機能など内臓諸器官に大きな負担をかける全身持久性能力(スタミナ)に関しては, 細めの体型が機能的にすぐれた条件を構成すると考えられる. 最近の健康情報誌によれば, ダイエットのすすめが圧倒的に多い. それは現時点で, 肥満が100%の確率で高血圧症など「生活習慣病」の引き金になるという警鐘をもとにしている. 肥満になる原因としてよく指摘されるのは, 運動による消費エネルギーに対して, 食事による摂取エネルギーが大きすぎるという理由である. したがって肥満からの減量には, 摂取エネルギーを少なくするか, 消費エネルギーを大きくすればよいとなる. しかし, 小さなソフトクッキー1枚はおよそ80kcalであるが, これを運動のみで消費しようとすると, 400mトラックの全力疾走を要することになり, エネルギー放出は必ずしも容易ではない. 消費エネルギーの増大をはかるには, 原理的に, より強い運動を, より長い時間, できるだけ回数多く, 持続させることとなり, 日常生活の運動処方としては不可能に近い. 肥満の防止に運動処方が必要とは, テレビ解説でもしばしば出てくるところであるが, 入るを制し, 出づるを増やす式の金銭出納帳に似たエネルギー論は, まったく非現実的である. 加えて, 節食ないし絶食は, 糖質のみをエネルギー源とする大脳の働きを阻害し, 拒食症をもたらす弊が指摘されている. 食事制限による身体活動水準の低下や体蛋白の分解促進などダイエットのもたらす難は, すでによく知られたところである. 健康にやせる運動処方を考えてみる. 身体活動のエネルギー源は, 糖質と脂質と, ときに蛋白質が当てられるが, 肥満というのはもともと貯蔵脂肪の過度の沈着であるから, 肥満の解消には, この貯蔵脂肪の燃焼を大きくするような運動を選ぶことが必要となる. 貯蔵脂肪(TGなど)を燃焼するためには, まず血漿中へ遊離脂肪酸(FFA)の形で動員することが必要である. この血中FFAは, 直接的に筋肉そのほかの内臓諸器官に取り込まれて, エネルギー源として酸化燃焼される. 血中FFA濃度の増加, すなわちFFA動員の増大をもたらす因子には, カテコールアミン(CA) 成長ホルモン(GH) 副腎皮質ホルモン(ACH) があり, これらの分泌増大を必要とする. これらはいずれも身体運動により増加するが, CAやACHが運動強度の大きいほど分泌量も増大するのに比べ, GHは最大努力の60%程度のとき, 分泌最大となる. 実際, 運動量を同一とした場合, 5~10分程度の全力に近いランニングよりも, 毎分120m程度の速度の30分歩行のほうが, 血中FFAの増加が著しい. この歩行速度は, せいぜい早足歩き程度である. 運動を始めると心拍数は次第に上昇していくが, この血中FFA濃度との関係を調べると, 運動時心拍数が毎分120~130拍あたりまでは, 運動強度が大きくなると血中FFA濃度も増加していくが, さらに強めて運動時心拍数を高めていくと, 血中FFA濃度は逆に増加が抑えられてしまう. 運動時心拍数が毎分125拍のとき, 血中FFA濃度がピークを迎えるという報告もあり, この心拍数レベルに達する運動とは, 実は早足歩きまたはゆっくりとしたジョギングなのである. すなわち, 運動時心拍数にして毎分120~130拍となるような早足歩き程度の, 軽く汗ばむ運動を30分ぐらい続けたとき, 貯蔵脂肪からのFFA動員量が大きい. 筋肉に取り込まれて酸化燃焼するFFAの量は, 血中濃度に比例することが知られている. 次の問題は, 運動時に動員されたエネルギー基質が, 運動後にあっては通常, 貯蔵脂肪に再合成されることである. したがって, 脂肪再合成機能の抑制機構の働きを高めておくことが重要である. また, 運動後の食欲発生の問題も等閑視できない. 食欲中枢は血中の糖濃度の減少およびインスリン濃度の増加によって刺激される. したがって食事時間と考えられる運動後の回復過程に, 血糖レベルの変動を極力小さくする必要がある. プロボクサーの減量法で有名になったサウナ入浴の効果, スタイリストのすすめる腹筋屈伸など局所運動の細身効果, 美容雑誌が推奨するリンゴや紅茶キノコなどやせる食品の効果, ラップ巻きや足の裏湿布など健康雑誌に報道されるヤセ念願の効果, さらには, あまりに高価なダイエット腹巻きなど「やせる下着」の着用効果などは, ひたすら食事制限 |
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ISSN: | 0385-0307 2189-5996 |
DOI: | 10.15064/jjpm.45.2_152_3 |