小児の摂食障害(第96回 日本心身医学会関東地方会演題抄録)

低年齢層の発症の問題点 飽食の時代に, 不健康にやせる子が増えている. その中から神経性食欲不振症にまで進む子どもも増えている. 十代前半のダイエットは危険であり, 大人の心と身体を作るはずの思春期の成長スパート期に栄養障害に陥り, 身体, 脳と心の発達が障害される. 低身長, 二次性徴の遅れ, 卵巣子宮の成長障害, 骨粗鬆症, 精神障害など, 深刻な心身両面の障害が生じる. 死亡率は思春期の心身症中最も高い(10%). 救命, 飢餓状態からの回復などの緊急治療の必要性がある. その一方, 身体だけ治療しても, ほとんどの子の発症の根底にある自己不全感や見捨てられる不安, 過剰な対人不安や対人...

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Veröffentlicht in:心身医学 2004/08/01, Vol.44(8), pp.617-618
1. Verfasser: 渡辺, 久子
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:低年齢層の発症の問題点 飽食の時代に, 不健康にやせる子が増えている. その中から神経性食欲不振症にまで進む子どもも増えている. 十代前半のダイエットは危険であり, 大人の心と身体を作るはずの思春期の成長スパート期に栄養障害に陥り, 身体, 脳と心の発達が障害される. 低身長, 二次性徴の遅れ, 卵巣子宮の成長障害, 骨粗鬆症, 精神障害など, 深刻な心身両面の障害が生じる. 死亡率は思春期の心身症中最も高い(10%). 救命, 飢餓状態からの回復などの緊急治療の必要性がある. その一方, 身体だけ治療しても, ほとんどの子の発症の根底にある自己不全感や見捨てられる不安, 過剰な対人不安や対人緊張が地道に改善されなければ, 心の苦しみは続き, 出産や育児で拒食が再発したり, 産後うつ病やわが子を可愛がれない育児障害などに陥るリスクがある. 次世代にまで悪影響の及ぶこともある. 早期発見と予防が大切 早期発見, 治療, 予防には親, 教師や医師がその子の異変に早く気づき, 親身にケアすることが大切である. 成長発達学的にみて, 思春期の子が, 身体の病気はないのに体重が増加しないのは, 成人の体重減少に等しい. 子どもは病気を否認し, 発症から約半年や1年以上は経過しないと病院を受診しない. 標準体重と比べて体重減少がどれくらいかという診断法は, 適切でない. その子の自然な体重に比べて減っているときに発症を疑う. 成長曲線をつけるとわかりやすい. 成長曲線上, 体重増加がなくなり体重が減りはじめたら, その子の発育は悪化しており不健康なやせ状態といえる. ただのやせから悪循環が始まるととまらなくなる. 5kg以上やせると, やせ自体が身体的ストレスとなり, コルチコトロピン, リリーシングホルモン(CRH)が分泌され, 脳内麻薬のβ-エンドルフィンの分泌などの生体防禦反応が起きる. 夜は寝なくても平気, 昼間は活発, 成績はあがり, 周囲は元気だと錯覚する. 飢餓状態に陥ると食欲は失せ, 胃袋は萎縮し空腹感が消え, やせることが快感になり, ダイエットハイに陥る. さらに体重が減ると, 脳は萎縮し, 正常な判断はできず, 徐脈やむくみがきても平然として, 大人がただ口うるさく思え馬耳東風となり, 飢餓死のリスクが高まる. 十代患児の診断 成人の診断基準のDSM-IVを満たすころには低年齢層は手遅れ状態になる. 小学校高学年から中学生には次のBrian提案の診断基準がよい(以下の(1)(2)(3)を満たす). (1)頑固な拒食, 減食(2)思春期の発育スパート期に, 身体疾患, 精神疾患がないのに, 体重増加がみられないか体重減少がある(この場合乳幼児期から現在までの成長データをパーセンタイル成長曲線上に記入し, 1チャンネル以上体重が下方にシフトしていれば不健康やせとする). (3)以下の2項目以上があること. 体重へのこだわり, カロリー摂取へのこだわり, ゆがんだ身体像, 肥満恐怖, 自己誘発嘔吐, 過剰の運動, 下剤の乱用. 働きかけの方法 真剣にまごころをこめて事態の危険を子どもと親に伝えていかないと治療的アプローチは始まらない. 1)子どもへの働きかけ:具体的にわかりやすく, ブルックの「無知の建設的使用constructive use of ignorannce」というスタンスを用いながら働きかける. 顔色が悪い子は「顔色悪いね, 大丈夫」と声をかけ, 体にさりげなく暖かくふれ, 子どもの状態をつかみたい. 肩に手をおけば, 手のひらの感触でやせとわかる. 髪の毛はかさかさで, 爪は白っぽいかもしれない. 手をにぎり「握られてどう?」と尋ねると, 子どもは「先生の手は暖かい」と答える. そこで「あなたよりも年寄りの先生の方が, 体が燃えている. あなたも燃えることのできる手になりましょうね」と伝える. 2)脈を計れば, 脈は弱くゆっくりである. 子ども自身に計らせるのもよい. 「ふつう脈はいくつかな」と尋ねると「60とか70」と答える. 「あなたの脈は50. 心臓が弱くなっているのでしょう. でもあなたは前よりどきどきしなくなったから, 安定しているように勘違いしているかもしれない」とコメントする. 脈がゆっくりで体温が低く, 生理がなければ, すでに低体重により内分泌代謝の機能が低下している. 「体はガソリンをいれないで走っている車と同じ. 最初は良くてもだんだんエンジンが擦り切れてくる. 外からみてスマートでも, 体は生きるエネルギーがはいってこないので, 冬眠状態に入っているのでしょう」. 母親と家族への働きかけ拒食にかりたてられる背景には, 乳幼児期からの自己不全感や人間不信, 見捨てられる不安など, 深い存在感や自己感などの隠された問題がある. 気を遣う敏感な子であった場合がほとんどである. そのような敏感な子が, ありのままの自分をだしてよいと思えるような, でんとした父母関係を育みたい. 特に母親をしっかり支え, 父母のコミュニケーションをよくし, 家庭の雰囲気を暖かくのんびりしたものにしていく. 患児は淋しさを隠し我慢して育ってきている場合が多く, 母親に一度甘えなおすことで, 不安定な気持ちから脱皮していくことができる. 社会への働きかけ日本では若者の流行服はやせた人でないと着られない. テレビや雑誌はいき過ぎたダイエットをあおっている. ロンドンでは15歳の15人に1人の女子が摂食障害になり, 英国政府は痩せすぎの女優のテレビ出演, やせたスーパーモデルの雇用を法的に禁じている. 治療小児科医や小児精神科医の治療はいろいろであるが, 次の共通点がある. 心身の発育期ゆえ, 一刻も早く異常なやせ状態から脱出し, 健康な心身の発達に戻すことを目指す. 患者と信頼関係を作りながら多面的にアプローチする. その内容は(1)身体的治療, (2)心理的治療, (3)家族治療, (4)学校
ISSN:0385-0307
2189-5996
DOI:10.15064/jjpm.44.8_617