酵母でのストレスマーカーTRX(チオレドキシン)のヒトへの応用の可能性
好気的生物は酸素呼吸により効率的なエネルギー産生系を獲得する一方でその過程で発生する活性酸素による酸化ストレス障害に直面している. 活性酸素に対する防御, 適応機構に関与する成分として種々の抗酸化酵素(ペルオキシダーゼ, カタラーゼ, SODなど)や抗酸化物(チオレドキシン(TRX), グルタチオン, アスコルビン酸など)が知られている. ここでは, 1)酸化ストレスに対する酵母でのTRX系, 即ちTRX, チオレドキシンレダクターゼ(TR), NADPH, の果たす役割について最近の知見をレビューし, ストレスマーカーの一つとしてTRXを紹介する, 2)及び3)組換え酵母TRXを中心にTRX...
Gespeichert in:
Veröffentlicht in: | 生物試料分析 2000, Vol.23 (1), p.24-24 |
---|---|
Hauptverfasser: | , , , , |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
Tags: |
Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
|
Zusammenfassung: | 好気的生物は酸素呼吸により効率的なエネルギー産生系を獲得する一方でその過程で発生する活性酸素による酸化ストレス障害に直面している. 活性酸素に対する防御, 適応機構に関与する成分として種々の抗酸化酵素(ペルオキシダーゼ, カタラーゼ, SODなど)や抗酸化物(チオレドキシン(TRX), グルタチオン, アスコルビン酸など)が知られている. ここでは, 1)酸化ストレスに対する酵母でのTRX系, 即ちTRX, チオレドキシンレダクターゼ(TR), NADPH, の果たす役割について最近の知見をレビューし, ストレスマーカーの一つとしてTRXを紹介する, 2)及び3)組換え酵母TRXを中心にTRX系の生化学的な諸性質を明らかにし, 酵母TRXとヒトTRX(ADF)の比較を試みる. 4)ヒトでもTRXがストレスマーカーの一つと考えられることから, ヒトTRX(ADF)に対するモノクローン抗体を用いたTRX(ADF)測定方法についても触れたい. 1)酸化ストレスに対する酵母でのTRX系の果たす役割1)2)3) 過酸化物の消去: TRXを還元力とするチオレドキシンペルオキシダーゼ(TPx)による過酸化物の消去が知られている, TPx反応により過酸化物を消去するときにTRXは酸化型に変換されてしまい, その還元力を消失する. そこで, 還元型TRX供給系としてチオレドキシンレダクターゼ(TR)と還元型補酵素NADPHから成るリサイクル系が構成されている. 酵母菌体内NADPH量はG6PDHにより調節されている. 酵母の酸化ストレス応答と核内転写因子YaplのTRX調節: 遺伝子欠損酵母の解析より酸化ストレス応答に関与する転写因子としてYap1 が同定されている. Yap1 は通常細胞質側に散在しているが菌体内が酸化状態にさらされると核内に局在するようになり, 酸化ストレス応答遺伝子群(TRX, TPx, GSH 合成酵素, GSHペルオキシダーゼ)の発現レベルを増大させる, TRXもまた酸化ストレスを受け核内へ移行することが観察され, Yap1 核外移送シグナル(CRD: cysteine rich domain)部分に作用し核内因子Yap1 の核外輸送を促進することでYap1 依存性転写活性に対して負の調節を果たすと考えられている. 2)酵母TRXの生化学的諸性質 酵母TRX2遺伝子を大腸菌にて発現させた組換えTRXを用い牛膵インスリン(酸化型)に対する還元活性を指標に生化学的諸性質を調べた. 分子量: 12,000; 至適pH: 7~8; pH 安定性: 4~11:熱安定性 :80℃まで安定: インスリンに対するKm: 150μM. 3)酵母TRXとヒトTRX(ADF)の比較 TRによるリサイクル反応: 酵母TRXの各種TRによるリサイクル反応を調べた結果, 酵母TRとの反応速度に対し酵母TRXとヒトTRとの組合せでは80%の相対速度であった. 過酸化水素に対する感受性: ヒトTRX(ADF)をin vitro で1mM H2O2に暴露したとき自己酸化によるダイマー化が観察されたのに対して酵母TRXでは10mMまでH2O2を添加してもダイマーは形成されなかった. ヒト型に比べ酵母TRXの方が溶液保存安定性がよいと示唆された. 4)モノクローン抗体によるヒトTRX(ADF)測定 ヒト還元型TRX(ADF)及び過酸化水素処理した酸化TRX(ADF)抗原をそれぞれマウスに免疫し, 抗原プレートにて両者に反応するモノクローン抗体と還元型のみに反応する特異モノクローン抗体との2種類を選択した. 得られた抗体を用いてTRX競合ELISAを組み立てたところ, 還元型および酸化型TRXの両者に反応する抗体は20~ 1.000ng/mLまでの定量性を還元型特異抗体は50~ 2.000ng/mLまでの定量性を有していた. また, 還元型特異抗体の酸化型に対する交差反応性は競合ELISA曲線より 1.3%であることが分かった. (参考文献) 1)井上善晴(1999)日本農芸化学会誌73(10): 1013-21 2)Y. lnoue et al(1999)J. Biol. Chem. 274(38): 27002-9 3)S. lzawa et al(1999)J. Biol. Chem. 274(40): 28459-65 |
---|---|
ISSN: | 0913-3763 |