ヒトの健康へのリスク解析に資するナノマテリアルの神経細胞分化におよぼす影響とその機序解明

「1. はじめに」脳神経系は, 幼年期から青年期におよぶ発達期において大きく成熟する. しかし, その脆弱さゆえに, わずかな異常でさえも神経機能に障害を引き起こし, 神経発達障害を生じ得ることが報告されている. 神経発達障害の発症リスクを高める要因としては, 遺伝的要因が主な原因とされてきたものの, 近年の疫学研究により, 環境要因の寄与が示唆されつつある. 実際微小粒子状物質 [particulate matter (PM) 2.5 : 2.5μm以下の粒子] を始めとする環境中微粒子や鉛, 水銀といった重金属など, 環境中の生体外異物への曝露により, 神経の正常な発達が破綻し得ることが報告されている. したがって, 発達期における正常な脳神経系の形成を妨げるような生体外異物への曝露は, 神経発達障害の発症に対する重大なリスク因子となり得る.