端野・壮瞥町研究からみたメタボリックシンドロームの予後

メタボリックシンドローム(MetS)は内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積を基盤とし,インスリン抵抗性±耐糖能異常,動脈硬化惹起リボ蛋白異常,血圧高値が個人に合併する心血管病易発症状態と定義される(日本内科学会).この2005年4月の日本内科学会と関連8学会によるMetS診断基準をはじめとして,現在臨床応用可能な幾つかのMetS診断基準が公表されている.日本人を対象とした検討では,オリジナルより腹囲基準を男性85cm,女性90cmと修正したNCEP-ATPIII基準(腹部肥満,血圧高値,空腹時高血糖,低HDLコレステロール血症,高中性脂肪血症の5項目のうち3項目以上)を用いた場合のMetSの有病率は男性...

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Veröffentlicht in:日本循環器病予防学会誌 2007, Vol.42 (1), p.46-46
Hauptverfasser: 斎藤重幸, 大西浩文, 赤坂 憲, 島本和明
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:メタボリックシンドローム(MetS)は内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積を基盤とし,インスリン抵抗性±耐糖能異常,動脈硬化惹起リボ蛋白異常,血圧高値が個人に合併する心血管病易発症状態と定義される(日本内科学会).この2005年4月の日本内科学会と関連8学会によるMetS診断基準をはじめとして,現在臨床応用可能な幾つかのMetS診断基準が公表されている.日本人を対象とした検討では,オリジナルより腹囲基準を男性85cm,女性90cmと修正したNCEP-ATPIII基準(腹部肥満,血圧高値,空腹時高血糖,低HDLコレステロール血症,高中性脂肪血症の5項目のうち3項目以上)を用いた場合のMetSの有病率は男性が12%~30%,女性が4%~20%とする報告がある.一方,日本内科学会(2005年4月)は腹囲基準を必須とし,高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症をひとつのカテゴリーとした診断基準を示したが,この場合のMetSの有病率は修正NCEP-ATPIII基準のものよりも数パーセント低い値になる.いずれの基準でも,有病率は高齢者では増加し,また,地域一般住民集団と健康診断受診者集団,あるいは職域集団でその頻度が異なることからMetSの有病率の解釈には観察集団の背景への注意が必要である.2004年度の国民栄養調査成績ではMetSの頻度は40~74歳の一般住民で男性25.7%,女性10.0%であり,腹部基準に加えて1項目の代謝異常を持つMetS予備軍は男性で26.0%,女性で9.6%であると報告され,日本人に広くMetSが広がっていることが憂慮される.欧米からの報告では,MetSは心血管疾患,冠動脈疾患,総死亡の相対危険を2~4とすることが示されている.我々も地域一般住民の800人の男性を対象とした6年間の縦断研究からMetSの予後を検討した.上述の修正NCEP-ATPIIIで定義したMetSは非MetSに比較して心疾患発症の相対危険が2.2となることを観察したが,日本内科学会基準のMetSでは相対危険は1.8であり診断基準により予後への影響が異なることが示唆される.これは,循環器疾患発症,進展に関与する最大のリスクファクターである血圧基準を満たすものの頻度に差に起因することが理由の1つと考えられる.LDLコレステロールや喫煙の影響を除いてもMetSは心血管疾患のリスクである可能性が示唆され,空腹時高血糖,前高血圧症,低HDLコレステロール血症,高中性脂肪血症など軽症リスクの集積状態は心血管疾患予防,糖尿病予防のターゲットとして重要であることが明らかである.また,非糖尿病者の観察から,MetSは非MetSに比較して,糖尿病発症リスクが3~5倍となり,腹部肥満がBMIよりも高血圧進展の有意な因子であることが示され,MetSの同定は心血管疾患や糖尿病,高血圧予防のための有用な手段となる.MetSの基盤である肥満,内臓肥満蓄積型肥満が直接,間接に高血糖,血圧高値,脂質代謝異常の成因となるメカニズムが明らかにされつつあり,肥満の是正が効率的な心血管疾患予防に有用である可能性が考えられる.今後,内臓脂肪蓄積の病態生理と日本人のMetSの実態の把握を進める必要があり,これらを基盤とした有効なMetSへの介入方策の構築が望まれる.
ISSN:1346-6267