5. ベトナム山岳地域における授乳婦の鉄・亜鉛・銅の栄養状態と母乳濃度に関する調査 (pp.338-345)

母乳は乳幼児にとって最も優れた栄養源である. しかし, 発展途上国において特に栄養状態の悪い授乳婦における母乳の栄養価に関する情報は多くない. 本調査は, ベトナム山岳地域における授乳婦の栄養状態および母乳中の栄養濃度について評価することを目的とした. ベトナムBacGiang省YenThe地区において, 以下の基準を満たす60名の女性を無作為抽出した：6-12ヶ月齢の乳幼児を持つ, 現在授乳中である, 顕著な健康問題が無い, 服薬中でない, 妊娠していない. そして, 対象者の身体計測値, 微量栄養状態, 食事摂取状況, 母乳栄養組成について調査を行った. 本調査対象者において, 貧血(39.0%), 亜鉛欠乏(55.4%)の者が高い割合でみられた. 食事調査の結果より, 鉄(10.2±2.5mg/d), 亜鉛(10.4±2.2mg/d)の平均摂取量は推定必要量よりも低い傾向にあった. 母乳濃度はそれぞれ鉄0.43±0.15mg/L, 亜鉛0.56(0.37, 0.82)mg/Lおよび銅0.19±0.05mg/Lであった. 母乳中の鉄, 亜鉛, 銅の濃度は, それらの血中濃度や栄養摂取量との関連はなかった. 以上の結果より, ベトナム山岳地域の授乳婦において, 貧血と亜鉛欠乏のり患が高いことを示唆した. また, 対象者の母乳中亜鉛濃度が低い傾向にあることが示されたが, さらなる調査が必要である.