B12補酵素関与ジオールデヒドラターゼ反応におけるラジカル転位の機構と活性部位残基の役割
B12補酵素関与ジオールデヒドラターゼは1,2-プロパンジオールなどの1,2-ジオール類を相当するアルデヒドへと脱水する反応を触媒する. Abeles, Reteyらの標識実験により, この反応においては2位の水酸基が1位に移動して1,1-diolを生成した後, 酵素上で立体特異的に脱水されてアルデヒドになること, また, これと交換に1位の水素は一旦補酵素の5'炭素上に移った後, 生成物の2位へ移動することが示された. さらに, 酵素反応中にcob(II)alaminおよび有機ラジカルの生成が認められたことから, 反応はラジカル機構で進行する. 今回は, 2位から1位への水酸基移動...
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Zusammenfassung: | B12補酵素関与ジオールデヒドラターゼは1,2-プロパンジオールなどの1,2-ジオール類を相当するアルデヒドへと脱水する反応を触媒する. Abeles, Reteyらの標識実験により, この反応においては2位の水酸基が1位に移動して1,1-diolを生成した後, 酵素上で立体特異的に脱水されてアルデヒドになること, また, これと交換に1位の水素は一旦補酵素の5'炭素上に移った後, 生成物の2位へ移動することが示された. さらに, 酵素反応中にcob(II)alaminおよび有機ラジカルの生成が認められたことから, 反応はラジカル機構で進行する. 今回は, 2位から1位への水酸基移動すなわちラジカル転位の機構と活性部位アミノ酸残基やK+の役割について報告する. 各残基をアラニンに変えて, いわゆるアラニンスキャンを行った. 文中の残基番号は全てαサブユニットのものである. Glu221をアラニンに変えると(αβγ)2複合体が形成されなかったことから, この残基については重要性が評価できていないが, その他の活性部位残基の中では, 基質の1位, 2位の水酸基が直接水素結合しているGlu170, Asp335, His143をアラニンに変えると活性が失われた. このことから, これらが触媒残基であると結論した. Gln141, Gln296, Ser362をアラニンに変えたものは部分活性があり, Gln296は基質結合に, またGln141, Gln296は酵素の機構依存的不活性化を防ぐのに重要であることが示唆された. Glu170変異型酵素の中では, E170Dが野生型の2%の活性を示したが, E170Q, A, Hはいずれもほとんど不活性であった. 酵素が不活性化されるまでの平均触媒回転数を表すと考えられるkcat/kinact値より, E170Qは僅か90回触媒回転しただけで不活性化されることが分かった. 以上の結果より, 170番目の残基にカルボキシル基が存在することとその位置が触媒反応および機構依存的不活性化防止に重要であることが明らかとなった. 不活性なE170Aについて, 基質, 補酵素存在下で吸収スペクトルを測定すると, 嫌気下でも好気下でも典型的なcob(II)alaminを生じることが分かった. また, EPRスペクトルから, 有機ラジカルが最初は僅かに生じるもののすぐ消滅し, スピン-スピンカップリングしていないcob(II)alaminのシグナルが得られた. このことから, この変異型酵素では, Co-C結合のホモリシスは起こるものの, 中間体有機ラジカルが何らかの理由ですぐに消滅する結果, Co-C結合が再生されなくなり, 不活性であると考えられる. 触媒反応におけるGlu170の役割をまとめると, この残基はK+および基質の1位水酸基の両方と相互作用していることから, その役割の1つは基質および中間体の結合に関与し, それらに適切な配向をとらせることにあると推察される. また, 1,1-diol中間体の脱水においてこの残基が塩基として働くこと, さらには, 水酸基移動の過程において, 移動しない方の1位水酸基のプロトンを受け取ることで, 遷移状態を安定化していることが示唆された. 一方, His143変異型酵素の中では, H143EとKの2つは活性がなかった. 部分活性のあった3つについてkcatからみると, 水素結合できるH143Qは野生型の4割近い活性があったが, 水素結合できないAやLに変えた場合は活性が2%以下であった. kcat/kinact値は, 水素結合できないアミノ酸に変えた場合は200以下と極めて小さく, 特にH143Lでは平均僅か10回の触媒回転後に不活性化されてしまうことが分かった. Glnのアミド基は中性付近のpHでは酸・塩基として挙動しないので, この結果からHis143は一般酸としてよりもむしろ基質の2位水酸基と水素結合することで, 触媒と機構依存的不活性化防止の両方に対して重要な役割を果たしていることが明らかとなった. 極めて低い活性を示すH143Aについて, 基質, 補酵素存在下で吸収スペクトルを測定すると, 嫌気下では典型的なcob(II)alaminを生じ, 好気下ではヒドロキソコバラミンを生じることが分かった. EPRスペクトルから, 最初は基質ラジカルが生じるもののすぐ消滅することが示された. このことから, この変異型酵素でもCo-C結合のホモリシスは起こり, 触媒反応が起こるものの, 中間体有機ラジカルの消滅が高い確率で起こる結果, Co-C結合が再生されなくなり, 不活性化されることが明らかとなった. この場合の2価コバルト種は好気下ではすぐに3価に酸化された. 触媒反応のpH依存性を調べ, 縦軸に触媒能をVmax/Kmでとったところ, 野生型ではこのように釣り鐘状になった. pH6.5-7の領域よりHisはプロトン化されていない方が活性は高いことが分かった. このことはH143Kが全く活性を示さなかったという事実と符合する. 一方, H143Qはこの領域でpH依存性を示さなかった. したがって, His143が移動する2位水酸基に部分的プロトン化を行って遷移状態を安定化するというよりも, むしろ水素結合が重要であると結論した. また, 1位を重水素標識した基質を用いてオーバーオールの反応に対する速度論的アイソトープ効果KIEを測定したところ, 野生型, H143Qとも10-12程度のデューテリウムKIEが認められた. このことは, これらでは水素移動が全体の律速過程であることを示している. H143AではKIEが4程度となり, 水素移動過程が完全律速ではなく, 部分律速になっていることが分かった. したがって, H143Aでは水酸基移動の遷移状態のエネルギーが高くなっていることが分かる. 以上の結果から, 移動しない方の水酸基がGlu1 |
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ISSN: | 0006-386X |