ほ乳動物細胞NAD代謝におけるニコチン酸の役割(II)

NADは, 細胞における酸化還元反応の補酵素としてのみならず, ADP-リボシル化反応の基質, サイクリックADP-リボースの前駆物質としても重要な役割を持っている. 近年, 酵母で同定された長寿遺伝子Sir2の産物がNAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素活性を有すること, ほ乳動物にも類似の酵素Sirt1が存在し, ヒストンに加えp53, FOXO, PGC-1αなどの転写因子, 転写調節因子の脱アセチル化を介して細胞の生存や代謝を制御している可能性があることが明らかになった. Sirt1の脱アセチル化においてNADはニコチンアミドとADP-リボースに分解され後者にアセチル基が結合してO-アセ...

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Hauptverfasser: 土屋美加子, 柴田克己, 田口寛
Format: Tagungsbericht
Sprache:jpn
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Zusammenfassung:NADは, 細胞における酸化還元反応の補酵素としてのみならず, ADP-リボシル化反応の基質, サイクリックADP-リボースの前駆物質としても重要な役割を持っている. 近年, 酵母で同定された長寿遺伝子Sir2の産物がNAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素活性を有すること, ほ乳動物にも類似の酵素Sirt1が存在し, ヒストンに加えp53, FOXO, PGC-1αなどの転写因子, 転写調節因子の脱アセチル化を介して細胞の生存や代謝を制御している可能性があることが明らかになった. Sirt1の脱アセチル化においてNADはニコチンアミドとADP-リボースに分解され後者にアセチル基が結合してO-アセチルADP-リボースが生ずるが, この反応はニコチンアミドで阻害をうける. したがってNADの細胞内レベルのみならずその代謝全体が, 細胞さらには個体の機能に多大な影響を与えていると考えられる. われわれはほ乳動物の細胞におけるNAD代謝の詳細を明らかにする目的で, LC/MS/MSによるNAD代謝関連物質の測定法を開発するとともに, 従来ヒトで不明であった, ニコチン酸からのNAD合成にかかわる, NAD合成酵素およびニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの分子同定を行なった. ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼはMg2+存在下にニコチン酸へホスホリボシルピロリン酸からリボース5リン酸を転移することによリニコチン酸モノヌクレオチドを生成する酵素である. ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの発現および酵素活性, さらにはニコチン酸からのNAD合成も検出されないHepG2細胞に, ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼcDNAを発現させると, 酵素タンパク質と活性が検出され, さらにこの細胞を[14C]ニコチン酸を加えて培養すると[14C]NADが合成されるようになったことから, ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼが細胞におけるNAD生合成に直接関わっていることが確認された. 一方ニコチン酸からNADへの合成経路を有するHela細胞, HEK293細胞などでは, ニコチンアミドを添加しても変わらなかったNAD量が, ニコチン酸添加によって上昇した. この効果は, HEK293細胞でsiRNAによりニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをノックダウンした場合には, 酵素タンパク質の発現量, 酵素活性, 細胞内でのニコチン酸からのNAD合成量の低下とともに減少したことからニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼを介しているものと考えられる. NADによる阻害効果をニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼとニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼで比較したところ, 前者は1mMのNADによってもほとんど阻害を受けなかったが, 後者は著しく阻害され, ニコチンアミド, ホスホリボシルピロリン酸に対するkm値が上昇した. したがってニコチンアミドとニコチン酸の細胞NAD量に対する効果の違いの一部は, 2つのホスホリボシルトランスフェラーゼのNADによる阻害に対する感受性の相違で説明できる. 肝細胞などニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ, NAD合成酵素を発現し, ニコチン酸からのNAD合成経路が活発な細胞では, ニコチン酸による細胞内NAD濃度上昇によりSirt1活性が上昇する可能性がある.
ISSN:0006-386X