14.アシルCoAオキシダーゼ・脂肪酸複合体の構造(第402回ビタミンB研究協議会研究発表要旨,ビタミンB研究委員会)

哺乳動物アシルCoAオキシダービ(ACO)はペルオキシソームに局在する脂肪酸β酸化経路の初発かつ律速段階に関与するフラビン酵素(FAD酵素)である. ACOはアシルCoAのα, β-位を脱水素してtrans-2-エノイルCoAを生成し(還元的半反応), 還元されたフラビンは分子状酸素によって再酸化される(酸化的半反応). 一方, 哺乳動物アシルCoAデヒドロゲナーゼは, ミトコンドリアに局在しACOと同じ還元的半反応を触媒するが, 酸化的半反応では, 還元型フラビンは分子状酸素によって酸化されず, 電子伝達フラビンタンパク質(ETF)に電子を与え, ミトコンドリア呼吸鎖のATP産生に連携する....

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Veröffentlicht in:ビタミン 2006/01/25, Vol.80(1), pp.32-33
1. Verfasser: 三浦, 洌
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:哺乳動物アシルCoAオキシダービ(ACO)はペルオキシソームに局在する脂肪酸β酸化経路の初発かつ律速段階に関与するフラビン酵素(FAD酵素)である. ACOはアシルCoAのα, β-位を脱水素してtrans-2-エノイルCoAを生成し(還元的半反応), 還元されたフラビンは分子状酸素によって再酸化される(酸化的半反応). 一方, 哺乳動物アシルCoAデヒドロゲナーゼは, ミトコンドリアに局在しACOと同じ還元的半反応を触媒するが, 酸化的半反応では, 還元型フラビンは分子状酸素によって酸化されず, 電子伝達フラビンタンパク質(ETF)に電子を与え, ミトコンドリア呼吸鎖のATP産生に連携する. さらに, ACOとACDは同じスーパーファミリーに属している. われわれは, ACOとACDの酸化的半反応の違い, とくに酸素に対する反応性の違いに注目してACO, ACDの構造的特徴を比較してきた. 最近, われわれはラット肝臓由来の二つのアイソザイムの一つACO-IIの結晶構造解析に成功し, その活性部位がACDに比べて広く, 分子状酸素の接近を容易にしていることがわかった. しかし, この構造は, ACO-IIの遊離型であり基質または生成物が結合していない状態である. したがって, 酸化的半反応(還元型酵素に生成物が結合した状態と酸素との反応)において分子状酸素の接近が保証されているかという問題は未解決である. そこで, われわれはACOに基質または生成物が結合したACO複合体の構造解析を試みた. 遊離型ACO-IIの結晶に, 種々の条件で基質(ドデカノイルCoA(ラウロイルCoA))をソーキングしたが, いずれも結晶にひびが入り, ソーキングによって基質/生成物との複合体結晶を得る試みは失敗した. 次に, 基質(ドデカノイルCoA)存在下にACO-IIの共結晶化を行い, 構造解析に適した良質の結晶を得ることができ, X線構造解析を大阪市立大学広津教授のグループとの共同研究によって行い, 分解能2. 1Aの構造を得た. この回折データからは, 活性部位にC12-脂肪酸に相当する電子密度が観察されたが, CoAに相当する電子密度は見られなかった. 全体構造は, 遊離型と同様の二量体構造をもち, 活性部位を含む折りたたみ構造は遊離型とほぼ同じであり, 複合体形成に伴う大きな構造変化はなく, この状態においても, 分子状酸素の活性部位への接近は保証されている. 結合した脂肪酸は, フラビン近傍に位置し, 基質/生成物結合状態を反映していると推定される. 脂肪酸カルボキシル基の酸素の一つは, Glu421のアミド水素および, FADのリビチル2'-OHと水素結合距離にあり, 触媒塩基Glu421のカルボキシル酸素と脂肪酸のα炭素との間の距離が3.2Aと近接した距離にあることが分かった. この水素結合ネットワークは, ACDにおける基質の認識, 活性化に重要なネットワークと同じである. しかし, 電子密度マップからは, 脂肪酸の構造の詳細は明らかではない. そこで, 結晶に含まれる脂肪酸を抽出し, 質量分析を行ったところ, m/z197, 215にほぼ等量のピークを認めた, これらのピークは, それぞれ, ドデセン酸ヒドロキシドデカン酸に対応する. なお, ドデカン酸に対応するm/z199には, 誤差レベル以上のピークは認められなかった. 以下の機構に基づき, 結晶ACO-IIの活性部位に結合する脂肪酸は, 2-ドデセン酸, 3-ヒドロキシドデカン酸と結論した. ドデカノイルCoA存在下ACO-II共結晶化の際溶液状態では, 通常の脱水素反応が進み, 生成物の離脱も早く酵素は通常の触媒サイクルに従う. しかし, 一旦結晶が成長し, 結晶状態で基質が結合すると, まず通常の素早い脱水素反応がおこり, 2-ドデセノイルCoAが生成する. 結晶状態では, 生成物の離脱は遅いために, 水との反応が無視できなくなる. さらに, 活性部位に結合した生成物のチオエステルのカルボニル酸素は, Glu421のアミド水素およびリビチル2'-ヒドロキシル水素と水素結合しているために, カルボニル炭素と3-メチン炭素が水の求核攻撃を受けやすい. しかも, 活性部位が広いために, 水の接近も容易である. 生成物2-ドデセノイルCoAのカルボニル炭素に最初に水が攻撃すると, 2-ドデセン酸が生成し, 水の攻撃が最初にC-3メチン炭素におこり, 次いでカルボニル炭素におこると, 3-ヒドロキシドデカン酸が生成する. この脂肪酸結合状態は, 生成物遊離が遅い結晶状態に起因する一種のartifactであるが, ACO-IIの酸化的半反応, 基質認識, 基質活性化に関する貴重な知見を与えてくれた. 以上のように, ACO-IIでは, 遊離状態, 基, 質/生成物の結合状態にかかわらず, 活性部位は開いた構造をもち, 分子状酸素の接近が保証される. また, 基質認識, 基質活性化機構は, ACDと共通していることが強く示唆された. 〔論議〕中村客員 ACOの生理的意義として異物処理のようなものは考えられませんか. 三浦委員 アシル鎖構造の違いによって異なるACOが存在していますので, そのようなACOの存在があるのか知りません. 現在までに異物を特異的に処理するようなACOは知られていません. 虎谷委員 1)ヒドロキシアシル体の生成をエノイル体へのマイケル付加で説明されていますが, 水分子が中性pHでマイケル付加する例は知られていますか. 2)脂肪酸とそのCoAエステルでは, 活性部位の水素結合ネットワークに微妙に違いが出るのではないでしょうか. 三浦委員 1)確かに, 中性pHでの水のマイケル付加反応は容易ではありません. 酵素系では, エノイルCoAヒドラターゼ等が知られていますが, 酵素が介在しないモデル系での水のマイケル付加反応は, 私の知る限りでは
ISSN:0006-386X
2424-080X
DOI:10.20632/vso.80.1_32