6.D-アミノ酸オキシダーゼの基質特異性改変(第398回ビタミンB研究委員会研究発表要旨)

ほ乳動物のD-アミノ酸を酸化するフラビン酵素は, D-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)とD-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)の2種類が知られている. DAOは, 主に中性D-アミノ酸に高い活性を有し, 酸性かアミノ酸には活性を示さず, 塩基性D-アミノ酸には非常に弱い活性を示す. 一方, DDOは, 酸性D-アミノ酸のみに活性を示し, 中性および塩基性D-アミノ酸に対しては, まったく活性を示さない. DAOとDDOは, いずれもFADを補酵素にもつフラビン酵素で, 一次構造の比較から, 同じファミリーに属していることが知られている. われわれは, 1994年にDAOの結晶構造を完成させ,...

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Veröffentlicht in:ビタミン 2005/01/25, Vol.79(1), pp.41-42
1. Verfasser: 三浦, 洌
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:ほ乳動物のD-アミノ酸を酸化するフラビン酵素は, D-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)とD-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)の2種類が知られている. DAOは, 主に中性D-アミノ酸に高い活性を有し, 酸性かアミノ酸には活性を示さず, 塩基性D-アミノ酸には非常に弱い活性を示す. 一方, DDOは, 酸性D-アミノ酸のみに活性を示し, 中性および塩基性D-アミノ酸に対しては, まったく活性を示さない. DAOとDDOは, いずれもFADを補酵素にもつフラビン酵素で, 一次構造の比較から, 同じファミリーに属していることが知られている. われわれは, 1994年にDAOの結晶構造を完成させ, 1997年にはヒト脳のDDOをクローニングし, 大腸菌の発現系によって純粋なDDOを得ることができた. ヒト脳DDOとブタ腎臓DAOの一次構造の比較から, DAOのI215~N225領域とそれに相当するDDOのR216~G220領域に特徴的な違いを見いだすことができた. 前者はDAOの三次構造上, 活性部位を含むループの一部であり, 基質認識に重要な役割をもつと思われる. このことを手がかりにして, DAOの基質特異性を改編する試みを行った. ひとつは酸性D-アミノ酸に活性を有する変異体, もうひとつは塩基性D-アミノ酸に活性をもつ変異体の設計である. 1. 酸性D-アミノ酸に活性を持つDAO変異体(DXO)の作製とその性質 DAOのI215~N225を, DDOの相当する残基R216~G220に入れ替えた酵素(DXO)のcDNAを作成し, 大腸菌の発現系に組み込んでDXO酵素標品を精製した. この新たな酵素DXOの酵素活性を調べ, DAO, DXOと比較したところ, DXOには, DAOにはなかった酸性D-アミノ酸(D-アスパラギン酸)に対する活性が出現し, DAOの良い基質であったD-アラニンに対する活性が激減した. すなわち, DXOは, DAOとDDOの中間的な基質特異性を示すことがわかった. したがって, DAOのI215~N225および, DDOのR216~G220はその基質特異性を決めるのに重要な役割を果たしていると結論できた. 2. 塩基性D-アミノ酸(D-アルギニン)に活性を持つDAO変異体(DRO)の作製とその性質 DAO, DDO, DXOの性質の比較によって, DAOのI215~N225部分がその基質特異性に強い影響をもつことが判明した. このことに基づいて, DAOのI215~N225部分に変異を加えて, 塩基性D-アミノ酸に活性を持つ酵素(DRO)の作製を試みることにした. DAOの三次構造から, Y224は活性部位の疎水性を保つ役割をもつことが推定されることから, DROの設計にはY224をグリシン残基に変異させ, さらに220, 221, 222, 223の位置にアスパラギン酸を導入した変異体(それぞれ220D224G, 221D224G, 222D224G, 223D224G)および, 224の位置にアスパラギン酸を導入した変異体(224D)のあわせて5種類の変異体を作製し, その基質特異性を調べた. 変異体のD-アルギニンに対するKm値は, いずれもDAOのそれに比べて1/7~1/2に減少しており, D-アルギニンに対する親和性が向上していることがわかった. 一方, D-リシンに対する親和性には大きな変化はなかった. 種々のD-アミノ酸について, Kcat/Km値を求めたところ, D-アルギニンに対しては, 221D224G, 222D224Gがもっとも高い値を示し, 野生型DAOの約10倍であった. これらのKcat/Km値は野生型DAOの中性Kcat/Km-アミノ酸に匹敵するものであった. また, D-アラニンやD-セリンに対しては, 野生型よりも二桁以上低い値を示した. 興味あることに, 220DG224は, D-フェニルアラニンに対して野生型の3倍のKcat/Km値を示した. 以上のように, DAOとDDOの構造の比較から, DAOの基質認識に重要と思われるI215~N225領域に変異を導入することによって, 基質特異性を操作することができた. さらに, これらの変異体に進化工学的操作を加えることによってより効率の高い特異な活性をもつDAO変異体の作製が期待できる. 〔論議〕江崎委員 ループ上での変異の位置と特異性の関連性はどのように説明されるのでしょか. 三浦委員 このループは, 基質の進入, 生成物の脱離の際に相当動くとされており, 柔軟性に富んでいます. そのために, 基質によって微妙に動くことが予想されます. 三次構造や基質結合のシミュレーションによって, より明らかになると思います. 永津客員 1)DXOはアルギニンを基質としませんか. アスパラギン酸を基質とするmutantsはできないでしょうか. 2)D-アミノ酸オキシダーゼは, アラニン, セリンが最もよい基質ですが, グリシンは基質としてどうでしょうか. 三浦委員 1)DXOのD-アルギニンに対する活性は全くありません. 2)D-アラニン, D-セリンに比べてグリシンに対する活性は相当に低い値を示します. 柘植委員 1)アミノ酸配列のホモロジーは, 両者で, 相当違うようですがFADの結合サイトのホモロジーは両者で高いのでしょうか. 2)D-アスパラギン酸のFAD結合部分とDAAOのactive moietyとで作成した合成酵素の基質特異性はどうなりますか. 三浦委員 1)DAO, DDOのFAD結合部位は両者で高く保存されています. 2)DDOから少しDAOに近くなったような活性がみられました. 稲垣準委員 D-フェニルアラニンに対する活性が上った理由はどのように考えられますか. 変異酵素のアスパラギン酸の側鎖のメテレン基が疎水的な環境をつくり出して基質(D-フェニルアラニン)との親和力が増したとは. 三浦
ISSN:0006-386X
2424-080X
DOI:10.20632/vso.79.1_41