11.好気・好酸性超好熱アーキアSulfolobus tokodaiiの新規NAD(P)依存性グルコース脱水素酵素の機能解析(第394回研究協議会研究発表要旨)

目的 われわれは, 極限環境微生物である超好熱アーキアの物質代謝系の解明と, その関連酵素の機能と構造解析を進めている. これまでに嫌気性超好熱アーキアであるPyrococcus furiosusの中央代謝の解糖系として, 非常に特異的な変形Embden-Meyerhof(EM)経路が機能していることを明らかにしてきた1). 本研究では, 好酸性好気性の超好熱アーキアであるSulfolobus tokokdaiiの解糖系に注目し, そのゲノム情報に基づく解糖系の解明と関連酵素の機能と構造の解析, 応用面の開発を行うことを主な目的とした. 方法, 結果, 考察 Sulfolobus属の解糖系は,...

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Veröffentlicht in:ビタミン 2004/01/25, Vol.78(1), pp.60-61
Hauptverfasser: 大島, 敏久, 伊藤, 佳洋, 櫻庭, 春彦, 郷田, 秀一郎, 河原林, 裕
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Zusammenfassung:目的 われわれは, 極限環境微生物である超好熱アーキアの物質代謝系の解明と, その関連酵素の機能と構造解析を進めている. これまでに嫌気性超好熱アーキアであるPyrococcus furiosusの中央代謝の解糖系として, 非常に特異的な変形Embden-Meyerhof(EM)経路が機能していることを明らかにしてきた1). 本研究では, 好酸性好気性の超好熱アーキアであるSulfolobus tokokdaiiの解糖系に注目し, そのゲノム情報に基づく解糖系の解明と関連酵素の機能と構造の解析, 応用面の開発を行うことを主な目的とした. 方法, 結果, 考察 Sulfolobus属の解糖系は, P. furiosusの変形EM経路とは異なり, 非リン酸化Entner-Doudoroff(non-PED)経路で進行することが予想されてはいるが, 詳細は不明である. われわれは, その経路の初発酵素であるNAD(P)依存性グルコース脱水素酵素(GDH)のゲノム情報による相同性検索を行った. その結果, 超好熱古細菌のS. tokokdaiiにNAD(P)依存性GDHに相同性の高い機能未同定遺伝子ST1704とST2556の二種のORFを見いだした. ORFST1704は1080bpから成り, 360個のアミノ酸をコードしている. 本遺伝子を大腸菌で発現させ, その発現産物がNAD依存性GDH活性を示すことを確認した. 大腸菌の抽出液から本酵素を精製し, 酵素化学的特徴を解析した結果, 本酵素の分子量は約160kDaで, 41kDaのサブユニットからなる4量体構造とることが明らかになった. 本酵素反応の最適pHは9.0, 最適温度は75℃であった. 本酵素は80℃まで熱変性せず, pH5.5~10の広いpH領域で安定であった. 本酵素は, このように高い安定性を示すことから, NAD(P)H依存性還元反応を利用する有用物質生産用酵素リアクターのNAD(P)H再生用酵素として, またグルコースの測定用バイオセンサー用酵素として高い有用性が期待できる. また, 本酵素の基質特異性は広く, D-glucose以外に2-deoxy-D-glucose, 2-amino-2-deoxy-D-glucose, 2-deoxy-D-glucose, D-xyloseなども高い活性を示した. しかし, リン酸化基質であるD-glucose-6-phos-phateには活性を示さなかった. 補酵素としては, NADとNADPの両者に活性が認められたが, 前者が後者より約3倍高い反応性を示した. 本酵素反応は, 初速度解析と生成物阻害様式の解析からsequential ordered Bi-Bi mechanismで進行することが明らかになった. さらに重水素化したD-glucose-1-2Hを基質として用い, 本酵素反応における補酵素NADのピリジン環の4位への水素転移の立体特異性を1H-NMRで解析した. その結果, [4R-2H]NADHの生成が検出できたので, 本酵素の水素転移の特異性はpro-R特異的(A特異的)であることが明らかになった. これまでに報告されているGDHの水素転移の立体特異性は, すべてpro-S特異的(B特異的)である2). 一般に脱水素酵素のNAD(P)Hの水素転移の立体特異性が異なることは, 全く異なる酵素であることを意味しているので, 本酵素は新規GDHであることが判明した. 本酵素と他生物のGDH間の一次構造を比較したところ, Bacillus属細菌などの既知のGDHとは非常に低い相同性しか認められなったが, アーキアのThermoplasma acidophilum のGDH(42%)やHaloferax mediterraneiのGDH(29%)には, 比較的高い相同性が認められた. 以上のことからSulfolobus属の本酵素は, 既知のGDHとは異なる新しい酵素であることが判明した3). 文献 1)櫻庭春彦, 大島敏久(2003)蛋白質 核酸 酵素48, 1256 2)LevyHR, LoeswusFA, VenneslandB(1956)J Biol Chem, 222, 685 3)Ohshima T, Ito Y, Sakuraba H, Goda S, Kawarabayasi Y(2003) J Mol Catalys B:Enzymatics 23, 281 〔論議〕左右田顧問 両酵素の示すpro-R, pro-S水素転移特異性と3次元構造との関連や円偏光二色性(CD)スペクトルでの差異は認められますが. 大島委員 3次元構造解析はまだできておりませんので, 現時点では水素転移の立体特異性と構造との関係は不明です. CDスペクトルも今後分析したいと考えております.
ISSN:0006-386X
2424-080X
DOI:10.20632/vso.78.1_60