遺伝子多型と日本人の栄養

同じ食事, 運動をしてもなぜ人によって肥満度が違うのか, なぜ糖尿病になる人とならない人がいるのか. これは栄養学の大きな課題である. この差は主に遺伝素因の違いによる. ヒトを作り上げている遺伝子全ての集まりをヒトゲノムと呼ぶ1). ヒトゲノムと栄養の解明は, 米国栄養士会の5大目標領域(肥満と生活習慣病一次予防, 栄養供給, 食品産業, ヒトゲノム, バイオテクノロジー)の1つである. この発展は, 日本の栄養学にも影響を及ぼすであろう. ヒトゲノムの基本構造は人類でほぼ共通である. 同一種内の正常個体間の形質, 形態, 遺伝子の多様性を多型(polymorphism)という. 重篤な単一...

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Veröffentlicht in:栄養学雑誌 2001-10, Vol.59 (5), p.213-220
Hauptverfasser: 香川靖雄, 柳沢佳子, 阿部三枝子, 佐藤史
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:同じ食事, 運動をしてもなぜ人によって肥満度が違うのか, なぜ糖尿病になる人とならない人がいるのか. これは栄養学の大きな課題である. この差は主に遺伝素因の違いによる. ヒトを作り上げている遺伝子全ての集まりをヒトゲノムと呼ぶ1). ヒトゲノムと栄養の解明は, 米国栄養士会の5大目標領域(肥満と生活習慣病一次予防, 栄養供給, 食品産業, ヒトゲノム, バイオテクノロジー)の1つである. この発展は, 日本の栄養学にも影響を及ぼすであろう. ヒトゲノムの基本構造は人類でほぼ共通である. 同一種内の正常個体間の形質, 形態, 遺伝子の多様性を多型(polymorphism)という. 重篤な単一遺伝子病(ガラクトース血症等)は正常個体ではないので, 変異を多型とはいわず, その原因となる遺伝子は病因遺伝子という. これに対して生活習慣病は, 高血圧, 動脈硬化, 骨粗鬆症, 糖尿病などでいずれもその発症や進展には数多くの遺伝子多型が関与しており, しかも栄養や運動によってその発症は大きく左右される2). そこで, 単一遺伝子病とは区別して多因子病と呼び, その遺伝子を疾患感受性遺伝子と呼ぶ. 平成11年の国民栄養調査では, 60歳代では高血圧と高脂血が各約60%, 肥満と高血糖が各約30%もあり, 25年後には要介護者520万人, 総医療費103兆円になると厚生白書が予測している. 日本人が白人に比して高血圧症に罹りやすいことや, 欧風化した食習慣3)によって糖尿病が激増している現状は重大な関心を集めている. 従来, 白人を中心に進められた多型の研究は, 日本人を含むモンゴロイドで改めて解明する必要がある. このような多型の頻度の人種差は, 民族の食文化による長期の淘汰の結果であり, 日本型食生活の利点に科学的根拠を与えることとなった.
ISSN:0021-5147