口腔癌患者の周術期における尿中トリプシンインヒビター(UTI)排泄量の変動とその臨床的意義

「緒言」尿中トリプシンインヒビター(urinary trypsin inhibitor:UTI)はウリナスタチンとも呼ばれ, 正常人尿中に検出される等電点約2.0, 糖含量約50%, 約22,000-30,000Daの糖蛋白である1-3). 1908年, Mullerら4)は腎疾患患者のヒト尿中にトリプシン阻害物質が存在することをはじめて報告して以来, 同様の報告が相次ぎ, 分子生物学的特性ならびに生理活性なども次第に明らかにされてきた5-7). 現在までトリプシン, キモトリプシン, 好中球エラスターゼ, カテプシンGなどの蛋白分解酵素の阻害作用, 白血球のTNF-α, IL-1, IL-6...

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Veröffentlicht in:日本口腔科学会雑誌 2005-07, Vol.54 (3), p.330-337
Hauptverfasser: 布山茂美, 柴崎浩一
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:「緒言」尿中トリプシンインヒビター(urinary trypsin inhibitor:UTI)はウリナスタチンとも呼ばれ, 正常人尿中に検出される等電点約2.0, 糖含量約50%, 約22,000-30,000Daの糖蛋白である1-3). 1908年, Mullerら4)は腎疾患患者のヒト尿中にトリプシン阻害物質が存在することをはじめて報告して以来, 同様の報告が相次ぎ, 分子生物学的特性ならびに生理活性なども次第に明らかにされてきた5-7). 現在までトリプシン, キモトリプシン, 好中球エラスターゼ, カテプシンGなどの蛋白分解酵素の阻害作用, 白血球のTNF-α, IL-1, IL-6, IL-8などの炎症性サイトカインの産生抑制作用, 好中球活性化抑制作用, ライソゾーム膜安定化作用, 臓器保護作用, さらに白血球からの活性酸素放出抑制作用など多彩な生物学的作用が報告8-12)されているが, なお不明な点も多い. UTIは肝臓で作られるinter-α-trypsin inhibitor(ITI)を前駆物質とし, 体のどこかに感染や手術などの侵襲が加わると, 顆粒球エラスターゼなどの刺激によって蛋白分解されて肝臓から血中に放出され, 抗炎症作用をはじめとする種々の生物学的活性を示すとともに, 余剰のUTIは腎臓から速やかに尿中に排泄されると考えられている13). UTIは感染症14), 悪性腫瘍15), 心筋梗塞, 妊娠腎疾患や手術後などで尿中に増加し16, 17), 急性相反応蛋白や赤血球沈降速度などと相関して変動することが知られており18, 19), また, 生体に加わる侵襲が大きいほど高値を示すことから, 侵襲の大きさを知る良き指標になるとの報告もある20, 21). 日常の比較的小さなストレスに対しては体内で産生される内因性のUTIで十分に標的臓器を保護することができるが, 過大な侵襲が加わると, 自己で産生される内因性UTI量では不十分なため多臓器不全を惹起する22). したがって, 外因性UTIの投与は重症感染症や急性膵炎, 急性循環不全の予防や治療に極めて有用23-25)であり, 最近では肝硬変症患者の手術後腎障害の予防や全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)の治療薬としても有効性が確認され臨床応用されている26-28).
ISSN:0029-0297