1,胚発生とDNAメチル化の世界
はじめに:DNAメチル化は, 主に抑制的な遺伝子発現プログラムを細胞分裂後の娘細胞に伝えるエピジェネティクス制御機構である. 哺乳類胚発生過程において, 胚を構成する種々の細胞ゲノムのDNAメチル化は, 時間的, 空間的に変化し, その結果, 組織, 細胞種特異的なDNAメチル化プロファイルが形成される. この特異的なゲノムDNAメチル化プロファイルは, 様々な作用機序, クロストークを介して, 広範な生理/病理現象に大きな役割あるいは影響をもつ. 哺乳類初期胚DNAメチル化動的変化:哺乳類初期胚発生においてゲノムDNAメチル化は動的に制御される. 受精直後から胞胚期にかけて起こるゲノム全体の...
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Veröffentlicht in: | 生物物理化学 2006, Vol.50 (3), p.92-92 |
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1. Verfasser: | |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | はじめに:DNAメチル化は, 主に抑制的な遺伝子発現プログラムを細胞分裂後の娘細胞に伝えるエピジェネティクス制御機構である. 哺乳類胚発生過程において, 胚を構成する種々の細胞ゲノムのDNAメチル化は, 時間的, 空間的に変化し, その結果, 組織, 細胞種特異的なDNAメチル化プロファイルが形成される. この特異的なゲノムDNAメチル化プロファイルは, 様々な作用機序, クロストークを介して, 広範な生理/病理現象に大きな役割あるいは影響をもつ. 哺乳類初期胚DNAメチル化動的変化:哺乳類初期胚発生においてゲノムDNAメチル化は動的に制御される. 受精直後から胞胚期にかけて起こるゲノム全体のメチル化低下と, 胞胚の子宮着床から原腸胚, 器官形成にかけて起こるde novoメチル化によって, 胚の基本的なゲノム配列特異的および組織特異的なDNAメチル化プロファイルが形成される. 主に反復配列におけるDNAメチル化変化の研究から, 将来の胚, 成体を形成する内部細胞塊/エピブラスト系列では, ゲノム全体が高度にメチル化され, 胎盤, 羊膜など胚体外組織を形成する栄養外胚葉や原始内胚葉系列では, ゲノム全体のメチル化は比較的低いレベルである. これらの胚発生に伴う動的なDNAメチル化プロファイル変化は, 平行して進行する核内構造やDNAクロマチン修飾の動的変化とともに核再プログラム化現象と呼ばれる. 核再プログラム化は細胞の多能性を規定するのではないかと想定されているが, その機能や作用機序の多くは不明のままである. DNAメチル化酵素遺伝子ノックアウトマウス解析:哺乳類ゲノムのDNAメチル化プロファイルは, 互いに異なる特性をもつDNAメチル化酵素Dnmt1, Dnmt3a, Dnmt3bによって形成, 維持される. 我々は, 哺乳類胚発生におけるゲノムDNAメチル化プロファイルの調節機構とその機能の解明を目指し, DNAメチル化酵素遺伝子ノックアウトマウスの表現型解析を行っている. Dnmt1は, ヘミメチル化DNAに対して高い酵素活性を示し, S期特異的にDNA複製部位に局在する. Dnmt1を欠損したマウス細胞ではゲノム全体にわたり, ほぼ無差別にDNAメチル化が低下する. これらの知見から, Dnmt1はDNA複製と協調してDNAメチル化プロファイルを娘細胞に伝える機能(「メチル化維持」)をもつと考えられている. Dnmt1機能を欠損させたマウスおよびアフリカツメガエルでは胚発生が停止することから, DNAメチル化は胚発生の正常な進行に必須であることが示唆される. Dnmt3aおよびDnmt3bは互いに相同なDNAメチル化酵素であり, 発生特異的に発現が調節される. Dnmt3a/Dnmt3b両欠損マウスおよび変異ES細胞の解析結果から, Dnmt3aおよびDnmt3bは, ES細胞におけるde novoメチル化の開始, 着床胚における高メチル化ゲノムの確立や生殖細胞におけるインプリント遺伝子のメチル化確立など, 種々のDNAメチル化動的変化過程に必須であることが明らかになっている. Dnmt3a/Dnmt3b両欠損マウス胚は着床後まもなく致死となることから, DNAメチル化動的変化がマウス初期胚発生に重要な役割を果たすことが示唆される. しかし, その機能および分子機構については依然として多くが不明である. DNAメチル化による遺伝子クラスター転写抑制:我々は, 哺乳類胚発生における最初の細胞分化, 内部細胞塊-栄養外胚葉分化に着目し, 栄養外胚葉特異的に発現するホメオボックス遺伝子Psx1がDNAメチル化によって調節されることを見いだした. Psx1のプロモーター近傍CpGアイランドは, 発現組織であるマウス胎生9.5日胚栄養外胚葉において低メチル化であるのに対して, 非発現組織である内部細胞塊/エピブラスト由来の胚体では高度にメチル化を受けていた. 胞胚(3.5日胚)におけるPsx1のCpGアイランドがメチル化されていないことから, Psx1の組織特異的メチル化は胞胚の着床後におこるde novoメチル化によって形成されることがわかった. Dnmt3aおよびDnmt3bノックアウトマウスの解析から, Psx1の細胞系列特異的DNAメチル化の形成および組織特異的転写抑制には, Dnmt3aとDnmt3bが必須であり, かつ互いに機能重複していることが明らかとなった. 興味深いことに, 我々は, Psx1周辺の約1Mbにわたる広範なゲノム領域内の遺伝子群のCpGアイランドが, Psx1と同様にDnmt3依存的にメチル化調節を受けていることを見いだした. これらの結果から, Dnmt3依存的なde novoメチル化の機能の一つとして, 広範なゲノム領域に集積する遺伝子群の転写発現を協調的かつ細胞系列特異的に制御することが示唆された. おわりに:これまでの一連の研究により, Dnmt3aおよびDnmt3bは胚発生におけるゲノムのDNAメチル化プロファイルを決定する中心的な制御因子のひとつであることが明らかとなった. Dnmt3依存的なde novoメチル化の作用機序の解明は, 胚発生における核再プログラム化の機能を明らかにするとともに, 癌など病理状態におけるDNAメチル化異常の作用機序の解明に貢献することが期待される. |
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ISSN: | 0031-9082 |