時間薬理学と投薬のタイミング
植物から哺乳動物に至るまで生物にはほぼ1日の長さを周期とする体内時計が存在し, この約24時間周期のリズムを概日性リズム(circadian rhythm)という. 体温, 血圧, ホルモン濃度, 酵素活性など様々な生理的現象に概日性リズムが認められる. 体内時計は哺乳類では視床下部の視交叉上核に存在することが知られており, 最近, 概日性リズムのペースメーカー遺伝子(per相同遺伝子)がヒト, マウスで明らかにされ1, 2), その機構が解明されつつある. 時間薬理学(chronopharmacology)は, 薬物の効果や毒性と生体リズムとの関連性を研究する学問領域であり, この時間薬理学...
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Veröffentlicht in: | 薬物動態 1998/02/28, Vol.13(1), pp.45-45 |
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1. Verfasser: | |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | 植物から哺乳動物に至るまで生物にはほぼ1日の長さを周期とする体内時計が存在し, この約24時間周期のリズムを概日性リズム(circadian rhythm)という. 体温, 血圧, ホルモン濃度, 酵素活性など様々な生理的現象に概日性リズムが認められる. 体内時計は哺乳類では視床下部の視交叉上核に存在することが知られており, 最近, 概日性リズムのペースメーカー遺伝子(per相同遺伝子)がヒト, マウスで明らかにされ1, 2), その機構が解明されつつある. 時間薬理学(chronopharmacology)は, 薬物の効果や毒性と生体リズムとの関連性を研究する学問領域であり, この時間薬理学の知識を実際の治療に応用してその有効性および安全性を高めることを目指す時間治療学が注目を集めている. 薬物の効果および毒性は, 作用部位での薬物濃度と作用部位での薬物に対する生体の感受性により決定される. 生体の薬物に対する感受性は, 神経伝達物質やホルモンの濃度の他, 受容体の数および親和性などが生体リズムの影響を受けるため, 時刻とともに変化する. また, 病気の症状も生体リズムの影響を受けることが知られている. 薬物の吸収, 分布, 代謝, 排泄も生体リズムの影響を受け, 投与時刻により体内動態が変動する薬物が知られている. 以下, いくつかの治療領域についての投薬のタイミングについて話題を取り上げてみたい. 虚血性心疾患や脳梗塞では早朝から正午に発症しやすく, これには早朝における急激な血圧上昇や血液凝固系の亢進が関与すると考えられている. また, クモ膜下出血は夜間よりも昼間のほうが発症しやすく, 血圧値の日内変動と相関することが認められている. アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるエナラプリルは投与時刻により薬物動態に差がみられ, 活性代謝物の血中濃度は午前10時投与のほうが午後10時投与よりも高い3). 一方, 投与24時間後の降圧効果は午前10時投与では認められないのに対し, 午後10時投与では認められ, 投与時刻により作用持続時間の差がみられる. また, 空咳の原因とされるブラジキニンの血中濃度は午前10時投与では上昇する例があるのに対し, 午後10時投与ではその上昇は認められていない. したがって, ACE阻害薬は夜に投与することにより降圧効果の持続が得られるとともに副作用である空咳の発現頻度を低下させることができると考えられている3). 気管支喘息では発作の出現頻度が夜間に高いことから, 夜間から明け方にかけて薬物の血中濃度が低下しないようにする投与方法が望ましい. トロンボキサンA2受容体拮抗薬であるセラトロダストは朝食後投与と夕食後投与とで投与時刻による薬物動態の差は認められていないが4), 上述の理由から用法は1日1回夕食後投与とされている. H2受容体拮抗薬を用いた消化性潰瘍の治療に関しては, 胃酸分泌が一般に夜間に増加することの他, シメチジンの体内動態やラニチジンのH2受容体拮抗効果等に概日性リズムがみられることから, 夜間に薬物の血中濃度が増加するような投与方法が望ましいとされている5). また, 癌化学療法においても, 正常細胞と癌細胞の概日性リズムを考慮した投与設計が試みられている. たとえば骨髄や消化管のDNA合成能が高まる時間帯を避けて抗癌剤を投与すれば, その毒性は軽減されると考えられている. 以上, 投薬のタイミングを適切に選択することにより薬効発現をより高め, 副作用をより軽減する試みがなされている. 薬理効果の持続やコンプライアンスの面から1日1回投与の製剤が普及してきたが, これまで以上に投薬のタイミソグが重要になろう. 文献 1)Tei, H. et al. :Nature, 389:512-516 (1997). 2)Sun, S. S. et al. :Cell, 90:1003-1011 (1997). 3) Sunaga K. et al. :Eur J Clin Pharmacol, 48:441-445 (1995). 4) 立野他:9(Suppl. 8):21-39 (1993). 5) Lemmer B et al. :Clin Pharmacokinet, 26, 419-427 (1994). |
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ISSN: | 0916-1139 |
DOI: | 10.2133/dmpk.13.45 |