製薬産業の現状と将来展望
過去製薬産業は, 抗生物質, 抗潰瘍薬, 降圧薬, 糖尿病薬, 中枢神経系作用薬など数多くの画期的医薬品を世に送り出し, 死亡率の大幅な低下, 生活の質(QOL)の向上など, 医療の進歩, 健康の増進に大きく貢献した. のみならず, 多くの薬剤が世界において年間10億ドル以上を売り上げる, 所謂「ブロックバスター」に育ち, 製薬産業の興隆を支えてきた. ところが20世紀末生命科学の画期的進歩とは裏腹に製薬産業の研究開発の生産性は低下の一途をたどり, 各社は開発品の減少に悩んでいる. 生命科学の進歩が, 医薬への応用と言う見地からはいまだ十分成熟しておらず, 研究, 技術開発へのインプットが医薬...
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Veröffentlicht in: | 薬剤学 2005, Vol.65(5), pp.247-247 |
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1. Verfasser: | |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | 過去製薬産業は, 抗生物質, 抗潰瘍薬, 降圧薬, 糖尿病薬, 中枢神経系作用薬など数多くの画期的医薬品を世に送り出し, 死亡率の大幅な低下, 生活の質(QOL)の向上など, 医療の進歩, 健康の増進に大きく貢献した. のみならず, 多くの薬剤が世界において年間10億ドル以上を売り上げる, 所謂「ブロックバスター」に育ち, 製薬産業の興隆を支えてきた. ところが20世紀末生命科学の画期的進歩とは裏腹に製薬産業の研究開発の生産性は低下の一途をたどり, 各社は開発品の減少に悩んでいる. 生命科学の進歩が, 医薬への応用と言う見地からはいまだ十分成熟しておらず, 研究, 技術開発へのインプットが医薬品の創出というアウトプットを上回った踊り場状態にあるといえる. 経済の停滞による財源問題や高齢化の進展などによる医療費の高騰により, 多くの先進国において薬剤費抑制施策が継続的に実施されていることも, 医薬品の研究開発にとって逆風になっている. しかし, 中枢系疾患, 癌, 肝炎, 泌尿器系疾患など医療上のニーズが必ずしも充足されていない疾患もまだ多く残されており, 今後も革新的で有用性の高い医薬品に対する期待は高いものがある. 現時点でのインプット, アウトプットのアンバランスも今後中期的には解消されていくものと見ている. ご承知の通り, 医薬品の本体はひとつの分子であることが特徴である. 自動車, 電子機器等数多くの部品, 技術要素から構成される製品とはまったく異なる. 単一の分子において, 有効性, 安全性, 安定性, 水溶性, 吸収性, 代謝特性等の諸要件を実現せねばならず, ここにも新薬創出の困難さが見られる. 分子は柔らかな構造を持ち, その一部分を変化させれば全体の構造に影響を及ぼす. 同時に複数の要件を分子内に実現することは現在の計算科学の能力を超え, ここに薬剤に対する深い洞察力を持つメディシナルケミストの経験, 勘, 創造力が必須となる. しかも, その特性は, in vitro, in vivoの前臨床試験だけでなく, 臨床治験においても実証されなければならない. 長期に渉る開発期間と莫大な額の投資が必要となる訳である. また, 医薬品の研究, 開発, 申請, 許可, 販売等のプロセスは厳密な法的, 行政的な監視下で行われる. 科学的, 公正, 透明で予測可能なレギュレーションシステムは独創的な医薬品創出研究, 開発を基にした健全な医薬品産業の発展に不可欠なものである. それに加えて大学, 基幹病院を含めての高い研究能力, 適切な知的財産保護システム等の社会的インフラストラクチャーが大切であるが, このような要件を満たしている国は日本を始め欧米の数ヵ国に限られている. 日本オリジンの医薬品は, 1960年代後半セファロスポリン系抗生物質の創製から始まるが, 革新的なものが多いという特徴がある. 日本の医薬品産業は, 優れた研究開発能力とグローバルに事業展開できる能力を持っていることから, 21世紀の日本経済の中核となる戦略産業として, 世界市場で主導的立場に立ち世界の人々の医療に貢献する可能性を持っている. 我々は疾患に悩まれている患者さんに視線をおいて, 今後も革新的で有用性の高い医薬品を提供し, 医療に貢献することを目指す所存である. |
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ISSN: | 0372-7629 2188-3149 |
DOI: | 10.14843/jpstj.65.247 |