硫黄入浴剤服用による中毒死の1症例

硫黄合剤による中毒の報告は現在までにも十数個の報告があるが, 報告の多くは農薬の服用もしくは硫化水素の吸入事故による中毒症例である. 今回, 硫黄入浴剤服用による中毒症例を経験したため報告する. 〔症例〕57歳女性. 自宅にて入浴剤(610ハップ(R))約200mLを服用. 約1時間後, 家人が発見し救急車にて来院. 来院時, 意識レベルはJCS30, せん妄状態であった. 著明なチアノーゼを認め, 酸素5L/分マスク投与下SpO_2 84%, 血圧183/103mmHg, 心拍数114bpmであった. BGAにてpH7.366, PCO_2 22・5mmHg, PO_2 283mmHg, B...

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Hauptverfasser: 森近雅之, 御村光子, 井上光, 堤紀子, 並木昭義
Format: Tagungsbericht
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:硫黄合剤による中毒の報告は現在までにも十数個の報告があるが, 報告の多くは農薬の服用もしくは硫化水素の吸入事故による中毒症例である. 今回, 硫黄入浴剤服用による中毒症例を経験したため報告する. 〔症例〕57歳女性. 自宅にて入浴剤(610ハップ(R))約200mLを服用. 約1時間後, 家人が発見し救急車にて来院. 来院時, 意識レベルはJCS30, せん妄状態であった. 著明なチアノーゼを認め, 酸素5L/分マスク投与下SpO_2 84%, 血圧183/103mmHg, 心拍数114bpmであった. BGAにてpH7.366, PCO_2 22・5mmHg, PO_2 283mmHg, BE-10, 3mmol/Lと著明な過換気と代謝性アシドーシスが認められた. 胃洗浄(生食3.5L)を施行し, せん妄に対し鎮静剤投与後, 精神科病棟に収容された. まもなく呼吸不全・ショックとなり, 意識レベルもさらに低下した. 麻酔科に依頼があり来院2時間後にICUに収容した. 直ちに気管内挿管し, 人工呼吸管理下に再度胃洗浄行い, 吸収阻害剤投与・強制利尿等を施行した. ショックに対しドパミン投与, メイロンにてアシドーシス補正を行った. 硫化水素中毒・硫化ヘモグロビン血症に対する特異療法としてニトログリセン持続静注開始したが, 血圧低下, 呼吸不全が急速に進行し来院17時間後に死亡した. 〔考察〕610ハップ(R)は硫黄を16~20%含有する. 硫黄合剤は強アルカリ性で服用すると消化管の化学熱傷を引き起こす. また硫黄成分は消化管内で胃酸・腸内細菌により分解されて硫化水素が発生し, ミトコンドリアのチトクロームオキシダーゼ活性を阻害し, 細胞内呼吸を傷害, 代謝性アシドーシス, ショック, MOFに陥ると考えられる. 治療法としては1)胃洗浄, 2)大量輸液・強制利尿, 特異療法である3)亜硝酸ナトリウム投与に加え, 4)HD-DHP・血漿交換, 5)高圧酸素治療OHPの報告・考察がある. これまであった報告では, 農薬を100mL以上服用した5症例のうち4例は死亡している. このため, 当症例の服用量は致死量を越えていると考えられ, また来院時にはすでに全身症状を発現していたため, 4), 5)の様な積極的な治療を試みたとしても救命は不可能であったと考えられる.
ISSN:0288-4348