硬膜外腔への初回薬液注入後に一過性の意識消失, 呼吸抑制を来した悪性リンパ腫の一例

〔症例〕62歳, 男性. 平成9年5月, 非ホジキン型悪性リンパ腫(原発は傍大動脈リンパ節)と診断された. 同10年2月には中枢神経浸潤, 4月に視神経浸潤を来し, 全脳照射, 髄注を受けた. 12月からは左臀~大腿部にかけての自発痛を自覚していたが, 転倒を契機として歩行困難となり, 同11年1月3日, 当院内科に再入院となる. 同月6日, 当科を紹介受診となるが, VAS 85/100の痛みを訴えた. 持続硬膜外ブロックから治療を開始することとし, 第3, 4腰椎間から硬膜外カテーテルを挿入, 留置した. 13時05分, カテーテルから1%メピバカイン8mlを注入したところ, 直後に意識の...

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Veröffentlicht in:蘇生 1999, Vol.18 (3), p.270-270
Hauptverfasser: 村上晴也, 森本昌宏, 河田圭司, 土屋典生, 蔵昌宏, 口分田理, 古賀義久
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Zusammenfassung:〔症例〕62歳, 男性. 平成9年5月, 非ホジキン型悪性リンパ腫(原発は傍大動脈リンパ節)と診断された. 同10年2月には中枢神経浸潤, 4月に視神経浸潤を来し, 全脳照射, 髄注を受けた. 12月からは左臀~大腿部にかけての自発痛を自覚していたが, 転倒を契機として歩行困難となり, 同11年1月3日, 当院内科に再入院となる. 同月6日, 当科を紹介受診となるが, VAS 85/100の痛みを訴えた. 持続硬膜外ブロックから治療を開始することとし, 第3, 4腰椎間から硬膜外カテーテルを挿入, 留置した. 13時05分, カテーテルから1%メピバカイン8mlを注入したところ, 直後に意識の消失をみた. さらに10分後, 舌根の沈下に対してエアウェイを挿入, 50分後には血圧が58/40mmHgとなったために気管内挿管を行った. 左眼の瞳孔はpin pointを呈したが, 項部硬直, バビンスキー反射などは認めなかった. 頭部MRIでは, 傍脳室白質および小脳に広汎な高信号域を認めた. なお, 同日16時頃からは自発呼吸が再開し, 23時には自己抜管するに至った. その後, 意識, 呼吸ともに安定していたが, 1ヶ月後より喀痰量の増加を来し, 呼吸不全を併発, 約1週間の呼吸循環管理の末, 永眠となる. 病理解剖により, 大脳, 小脳, 脳幹への腫瘍の転移が確認された. 〔考察〕硬膜外腔への薬液注入後に意識消失をみたとする報告が散見されるが, この意識障害の発生にはくも膜下腔圧の上昇が関与すると考えられている. 1967年, Usubiagaらは, 硬膜外腔に生理食塩水10~20mlを注入し, くも膜下腔圧の測定を行ったところ, 5~15cmH_2 Oの上昇をみたと報告している. さらに, 1986年, Hillらは頭蓋内圧の上昇を呈している症例では, このくも膜下腔圧の上昇がより顕著になるとしている. これらの事実から, 本症例では, 腫瘍の転移によって頭蓋内圧が上昇, 硬膜外腔への薬液注入によってさらなる内圧の上昇を招き, 意識消失を来したものと推察される. 以上より, 頭蓋内圧の上昇が疑われる症例に対して硬膜外注入を行う場合は, その注入速度を含め, 細心の注意を要すると考えられた.
ISSN:0288-4348