高度貧血症例に対する低体温療法の組織酸素代謝における有用性の検討
〔目的〕高度の貧血状態では, 酸素含量の減少に伴い酸素供給量(DO_2 )が低下し組織酸素代謝の破綻をきたす. 大量出血によりHbが2g/dlまで低下したエホバの証人に対して, 酸素消費量(VO_2 )の減少を目的に低体温療法を施行し, 高度貧血症例における低体温療法の有用性について組織酸素代謝の面から検討したので報告する. 〔対象〕症例は30歳女性. 経膣分娩後の大量弛緩出血による出血性ショックで当院に搬入された. Hbは4g/dlであったが, 宗教的制約により輸血を拒否され, 手術を断念, 持続する出血に対して両内腸骨動脈塞栓術を施行後ICU入室となったが, Hbは2g/dlまで低下してい...
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Zusammenfassung: | 〔目的〕高度の貧血状態では, 酸素含量の減少に伴い酸素供給量(DO_2 )が低下し組織酸素代謝の破綻をきたす. 大量出血によりHbが2g/dlまで低下したエホバの証人に対して, 酸素消費量(VO_2 )の減少を目的に低体温療法を施行し, 高度貧血症例における低体温療法の有用性について組織酸素代謝の面から検討したので報告する. 〔対象〕症例は30歳女性. 経膣分娩後の大量弛緩出血による出血性ショックで当院に搬入された. Hbは4g/dlであったが, 宗教的制約により輸血を拒否され, 手術を断念, 持続する出血に対して両内腸骨動脈塞栓術を施行後ICU入室となったが, Hbは2g/dlまで低下していた. 〔方法〕組織酸素代謝の指標には酸素摂取率(O_2 ER)と血中乳酸値(Lac)を用いた. O_2 ERは心エコーによる心拍出量測定と右房カテーテルからの混合静脈血サンプリングからDO_2 , VO_2 を算出し求めた. Lacは動脈血を採血後迅速にABL-625(Radiometer Co. )を用い測定した. 入室時Lacが増加していたため, 全身の代謝抑制によるVO_2 減少を目的に, ミダゾラム・フェンタニールによる持続鎮静と筋弛緩薬を用いた人工呼吸管理下に軽度低体温療法(34℃)を導入した. また心拍出量増加によるDO_2 増加を目的にドブタミンを投与し, 貧血に対して鉄剤とVB_12 , エリスロポイエチンの投与を行った. 〔結果〕低体温療法導入時のDO_2 Indexは142ml/min・平方メートルと著明に減少していたが, VO_2 Indexは46ml/min・平方メートルに抑えられ, O_2 ERは30~50%で推移した. Lacは低体温療法導入前には30~50mg/dlと高値を呈していたが, 導入後は速やかに低下し20mg/dl以下で推移した. 第9病日Hbは5g/dlと増加したため復温を開始, 第11病日人工呼吸器を離脱, 第13病日Hbは6g/dlとなり一般病棟へ退室した. Hbの増加に伴いDO_2 の増加を認め, それと共にO_2 ERは正常化した. 経過中は軽度の肝機能障害以外, 低酸素症による臓器障害を認めなかった. 第29病日Hbは11g/dlまで回復し独歩退院となった. 〔結語〕輸血を行えない, または輸血が間に合わない高度の貧血症例に対する組織酸素代謝の維持に, 低体温療法は有用と思われた. |
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ISSN: | 0288-4348 |