特発性心筋症合併症例の周術期合併症と突然死症例の検討

特発性心筋症は周術期に突然死を来す可能性の高い疾患でその術中, 術後管理に細心の注意を要する. 今回演者らは過去8年間に当院における麻酔症例16, 000例中, 特発性心筋症合併症例を39人, 44例, その術中, 術後死亡を4例経験したので報告する. 症例は大分医科大学手術部で手術を受けた44例で肥大型閉塞性心筋症(以下HOCM)6人に6回, 肥大型非閉塞性心筋症(以下HNCM)29人に34回, 拡張型心筋症(以下DCM)4人に4回であった. 調査項目は既往歴, 術前理学所見, EKG, 胸部X線写真, 心エコー, 心カテ所見, 術中合併症, 術後合併症で, これを麻酔記録, ICU記録, カルテより調べた. 術前状態は既往歴でHOCM6症例において, 狭心痛, 心不全が高頻度に見られたHNCM29症例においては心筋梗塞または狭心痛は4例に見られた. またDCM4症例においては心不全例は全例に見られたが虚血性心疾患は見られなかった. 術前検査所見では心電図上HOCMにおいて, 心室性不整脈, ST-T異常, septal Qが高頻度に, HNCMではST-T異常が, DCMでは心房細動が全症例に見られた. HOCMにおいて術中合併症は低血圧が多く, 術後合併症中重篤なものは突然死2例, LOS 1例, その他肺水腫, 腎不全が見られた. HNCMにおいても低血圧が多く心停止は2例に起こりともに死亡した. DCMにおいて低血圧は全症例において出現しカテコラミンを必要とし, また術後全症例で人工呼吸を行った. また今回の結果では, その合併症はいずれの心筋症においても高頻度に出現したが, 死亡症例に特異的な術前所見は見られなかった. 今回の突然死症例は, HOCMとHNCM症例に限られておりDCMには見られない. それはHOCMが周術期に危険であることは言うまでもないが, HNCMと診断された症例もストレス下に流出路狭窄や心筋虚血を来し死亡した可能性も示唆された.