伝統産業における有機溶剤取扱者の健康影響

有機溶剤による健康影響を明らかにするために某漆器組合に加入している事業所の従業員139名を対象に健康診断を実施した. 有機溶剤取扱年数は, 男女とも, 10年以上の長期間取扱者が多かった. 検査項目は, 一般定期健康診断および有機溶剤健康診断項目に聴力検査(最高可聴閾)を加えた項目である. 有機溶剤作業中の自覚症状では, 取扱者群は非取扱者群に比べて目や鼻, 喉, 皮膚に関する症状が多く訴えられていた. 胸部レントゲン, 血圧, 視力, 血液・生化学検査および尿検査の各検査成績において, 両群間で, 有意差は認められなかった. 最高可聴閾では, 女の取扱者群において, 75パーセンタイルを超えて低下するものの割合が非取扱者群に比して有意に高かった. なお, 最高可聴閾と曝露濃度の間に有意な関連は認められなかった. 以上の結果から, 有機溶剤取扱者は, 作業中の自覚症状と最高可聴閾に有機溶剤によると思われる所見が認められた.