神経疾患の克服に向けたiPS細胞技術

神経疾患の克服は患者と社会の両方にとって重要な課題である.神経疾患に関する従来研究は,株化細胞やモデル動物を用いてきたが,これらはヒトの神経細胞や脳組織とは構造的にも機能的にも異なるところが多く,疾患モデルとして十分とは言えない.また多因子性の疾患や,病因不明の孤発性疾患については,モデル動物を作製することが極めて困難である.これに対し人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)は患者の遺伝情報を保持し,未分化性を維持したまま増殖可能であり,様々な神経細胞に分化できることから,新たな疾患モデルとして,神経疾患研究に革新をもたらすと期待されている....

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Veröffentlicht in:日本薬理学雑誌 2023, Vol.158(1), pp.57-63
Hauptverfasser: 木村, 俊哉, 六車, 恵子
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:神経疾患の克服は患者と社会の両方にとって重要な課題である.神経疾患に関する従来研究は,株化細胞やモデル動物を用いてきたが,これらはヒトの神経細胞や脳組織とは構造的にも機能的にも異なるところが多く,疾患モデルとして十分とは言えない.また多因子性の疾患や,病因不明の孤発性疾患については,モデル動物を作製することが極めて困難である.これに対し人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)は患者の遺伝情報を保持し,未分化性を維持したまま増殖可能であり,様々な神経細胞に分化できることから,新たな疾患モデルとして,神経疾患研究に革新をもたらすと期待されている.既にiPS細胞技術は疾患のモデル化をはじめ,創薬や再生医療にも活用されている.また最近では,疾患に関連した一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)やリスクバリアントに関する実証的研究においても利用が進められている.本稿では,まずiPS細胞から神経細胞や人工的な脳組織(脳オルガノイド)を作製する技術について述べ,次いでこれらの技術を用いた神経疾患研究の動向を概観し,最後にこの技術の課題について議論する.
ISSN:0015-5691
1347-8397
DOI:10.1254/fpj.22084