グリア細胞の機能異常による緑内障発症メカニズム

緑内障は本邦における中途失明原因第一位の疾患である.緑内障における失明は視覚情報を脳へ伝える網膜神経節細胞(以下,RGC)が障害されることによって生じる.従来,緑内障のリスクとしてよく知られる高眼圧が直接的にRGCに機械的負荷をかけることによって細胞障害を誘導すると考えられてきた.しかしながら,近年の疫学研究から日本人緑内障患者の大部分が正常眼圧緑内障であることが明らかとなり,上記の仮説以外の新たな病態発現メカニズムの解明が急務となっている.このような背景のもと,本稿では視覚組織を構成する非神経細胞の1つである「グリア細胞」が緑内障発症過程に積極的に寄与する可能性について議論したい.中枢神経系...

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Veröffentlicht in:日本薬理学雑誌 2020, Vol.155(2), pp.87-92
Hauptverfasser: 篠﨑, 陽一, 小泉, 修一
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:緑内障は本邦における中途失明原因第一位の疾患である.緑内障における失明は視覚情報を脳へ伝える網膜神経節細胞(以下,RGC)が障害されることによって生じる.従来,緑内障のリスクとしてよく知られる高眼圧が直接的にRGCに機械的負荷をかけることによって細胞障害を誘導すると考えられてきた.しかしながら,近年の疫学研究から日本人緑内障患者の大部分が正常眼圧緑内障であることが明らかとなり,上記の仮説以外の新たな病態発現メカニズムの解明が急務となっている.このような背景のもと,本稿では視覚組織を構成する非神経細胞の1つである「グリア細胞」が緑内障発症過程に積極的に寄与する可能性について議論したい.中枢神経系を構成するグリア細胞は,髄鞘を形成するオリゴデンドロサイト,免疫担当細胞であるミクログリア,脳内恒常性や神経機能制御に関わるアストロサイトなどが知られているほか,網膜ではミューラー細胞のような組織特異的グリア細胞も存在する.グリア細胞は,様々な神経変性疾患において活性化することが報告されており,緑内障においてもヒト患者,霊長類モデル,げっ歯類モデルの網膜や視神経において活性化することが示されている.興味深いことに,グリア細胞の活性化はRGCの脱落が認められない緑内障早期から認められ,グリア細胞の機能変調はRGC障害による二次的変化ではなく,むしろ病態の発現するための原因となる可能性がある.例えば,グリア細胞特異的遺伝子の欠損は,正常眼圧緑内障様症状の誘導や緑内障モデルマウスでの病態の増悪をもたらす.本稿ではグリア細胞,特に眼組織のマクログリアであるアストロサイトおよびミューラー細胞の緑内障発症における役割について,最近の知見を紹介する.
ISSN:0015-5691
1347-8397
DOI:10.1254/fpj.19120