糖尿病性細小血管障害の治療戦略

近年,日本人のライフスタイルの変化(高脂肪食の摂取や運動不足など),並びに高齢化社会に伴い,糖尿病患者は激増しており,もはや重大な社会問題となりつつある.その最終的障害(糖尿病性合併症)は1型糖尿病,2型糖尿病に共通の障害として現れ,この合併症は血管障害から始まると言っても過言ではないが,糖尿病性血管合併症(大血管障害・細小血管障害)についての詳細な機序は,十分には解明されていないのが現状である.糖尿病病態時において血管収縮系の異常や,血管内皮依存性弛緩反応が減弱するという現象は幾つか報告されており,また,細小血管においては内皮由来過分極因子(EDHF)が重要な因子であることが示唆されているが...

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Veröffentlicht in:日本薬理学雑誌 2008, Vol.131(2), pp.78-84
Hauptverfasser: 松本, 貴之, 小林, 恒雄, 鎌田, 勝雄
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:近年,日本人のライフスタイルの変化(高脂肪食の摂取や運動不足など),並びに高齢化社会に伴い,糖尿病患者は激増しており,もはや重大な社会問題となりつつある.その最終的障害(糖尿病性合併症)は1型糖尿病,2型糖尿病に共通の障害として現れ,この合併症は血管障害から始まると言っても過言ではないが,糖尿病性血管合併症(大血管障害・細小血管障害)についての詳細な機序は,十分には解明されていないのが現状である.糖尿病病態時において血管収縮系の異常や,血管内皮依存性弛緩反応が減弱するという現象は幾つか報告されており,また,細小血管においては内皮由来過分極因子(EDHF)が重要な因子であることが示唆されているが,その本体,および細胞内情報伝達機構は完全に明らかとなっていない.糖尿病性細小血管障害に,EDHFを介した弛緩反応の障害が深く関与していることを考えると,このメカニズムを解明することは非常に重要である.最近,我々は糖尿病モデル動物を用いてEDHF様弛緩反応の減弱に,サイクリックAMP(cAMP)を分解するホスホジエステラーゼ(PDE)活性上昇を介したcAMPシグナリングの障害が関与しているという全く新しい知見を明らかとした.また,同様の糖尿病モデル動物においてcAMPシグナリング系の異常が起こっていることを明らかとしている.従って,糖尿病病態時において,cAMPシグナリング系を活性化させることが,EDHF様弛緩反応の改善,さらには糖尿病性細小血管障害の改善に繋がると思われる.実際,PDE3特異的阻害薬の慢性投与により,この糖尿病時におけるEDHFの減弱が著しく改善することを見いだし,血管におけるcAMPシグナリングの制御が細小血管障害に対する治療戦略となる可能性が示されている.
ISSN:0015-5691
1347-8397
DOI:10.1254/fpj.131.78