一酸化窒素が骨格筋速筋線維のSERCA1-ATPase活性に及ぼす影響

骨格筋の速筋線維には一酸化窒素(NO)合成酵素が豊富に存在しているが, その機能については明らかにされていない. 今回, 速筋線維SERCA1-ATPaseに対するNOの効果を検討した. ウサギ骨格筋から作成したSR膜標本にNOガス(100μM以下)を処置することにより, SERCA1-ATPase活性はNOの濃度依存的に阻害された. この抑制は一過性であり約15分で完全に回復した. SR内へのCa^2+ 取り込み活性も, NOガスによるATPase活性の場合と同様に阻害された. NOの阻害作用は, 還元剤ジチオスレイトール存在下においても全く影響が見られなかったため, NOの酸化作用による可能性が少ないと考えられる. また, 高濃度のRyanodineおよびHeparin存在下においても, Ca^2+ 取り込み活性に対するNOの阻害効果に変化はなかった. 従ってNOによりCa^2+, -channelが活性化され, 見かけ上Ca^2+ の取り込み量が減少したのではない事がわかった. guanylate cyclaseの抑制剤であるLY83583, あるいは8-Br-cGMPsを処置しても, 両活性に影響が認められなかったことから, NOによる抑制はPKGおよびcGMPsによる作用でないと考えられる. 次に, NOを処置した直後にGTP-γSを処置すると, SERCA1-ATPase活性とCa^2+ 取り込み活性の抑制の部分的な回復が認められた. GTP-γSの代わりにGDP-βSを用いると影響が見られず, NOを処置していないSR膜標本にGTP-γSあるいはGDP-βSを処置してもATPase活性とCa^2+ 取り込み活性に変化は見られなかった. NOはSERCA1-ATPaseに直接作用してその活性を抑制している可能性が考えられるが, 現在, NOとGTP-γS両者のSERCA1-ATPaseに対する作用機構について詳細に検討中である.