内皮由来血管収縮因子Endothelin:同定および単離精製

内皮依存性の血管拡張反応と並んで, 様々の刺激に対する内皮依存性収縮反応が報告されている. 血管の伸張や内圧亢進といった機械的負荷による収縮, 低酸素状態における収縮, トロンビンによる収縮, さらにはニューロペプチドYによるノルアドレナリン収縮の増強などがその例であるが, これらの収縮反応をつかさどる内皮由来の液性因子はいずれも未だ同定されていない. 我々はこのような観点から, 内皮細胞培養上清中に強い血管平滑筋収縮活性を見いだし, この因子の単離精製, 構造決定に成功した. ブタ大動脈内皮細胞を, 10%血清を含む最小培地中で常法により継代し, コンフルエント単層培養した. 2-6日目の培...

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Veröffentlicht in:日本薬理学雑誌 1987, Vol.90 (6), p.342-342
Hauptverfasser: 柳沢正史, 栗原裕基, 木村定雄, 三井洋司, 友部容子, 小林美枝子, 後藤勝年, 眞崎知生
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:内皮依存性の血管拡張反応と並んで, 様々の刺激に対する内皮依存性収縮反応が報告されている. 血管の伸張や内圧亢進といった機械的負荷による収縮, 低酸素状態における収縮, トロンビンによる収縮, さらにはニューロペプチドYによるノルアドレナリン収縮の増強などがその例であるが, これらの収縮反応をつかさどる内皮由来の液性因子はいずれも未だ同定されていない. 我々はこのような観点から, 内皮細胞培養上清中に強い血管平滑筋収縮活性を見いだし, この因子の単離精製, 構造決定に成功した. ブタ大動脈内皮細胞を, 10%血清を含む最小培地中で常法により継代し, コンフルエント単層培養した. 2-6日目の培養上清をクレブス液中に懸垂したブタ冠動脈スパイラル条片に加えると, 最終濃度10%程度から内皮非依存性の収縮活性力が認められた. 最大張力はカリウム拘縮に匹敵する強いものであった. 冠動脈のほか, 中大脳動脈, 肺動脈でも同様の収縮は認められた. 培養前の培地や線維芽細胞培養上清には活性は認められなかった. この収縮は比較的緩徐に立ち上がり, 持続性で, 極めてwash outされ難かったが, イソプロテレノールあるいは亜硝酸剤を加えると完全に弛緩し可逆的であった. α-アドレナリン性, ムスカリン性, ヒスタミン性, セロトニン性の各拮抗薬, あるいはアラキドン酸代謝阻害薬に抵抗性であったが, Ca^2+ チャンネル拮抗薬存在下あるいはCa^2+ を含まない外液中では抑制された. 培養上清をトリアシンで前処理すると活性が消失することから, この因子はペプチドであろうと推定された. さらに, 4週間にわたる無血清培養の後も上清の収縮活性力が同程度に保たれることから, この因子は培地中の血清成分に由来するのではなく, 内皮細胞がde novo合成・分泌しているものと思われた. つぎにこ無血清培養上清より, 収縮因子の単離精製を試みた. 5日目の無血清培養上清約12リットル(延べ培養面積 48,000平方センチメートル)を, まず逆相カラムで濃縮・脱塩し, 上記ブタ冠動脈収縮をアッセイ系に用いて, 陰イオン交換FPLC, さらに2回の逆相HPLCを行い, この因子を完全に精製した. アミノ酸分析により, このものがペプチドであることが確認され, その収量は約3nmolであった. この因子のEC_50 は少なくとも4x10^-10 M程度で, 極めて強力な血管作動性物質であることがわかった. さらに気相シーケンサーによる極微量アミノ酸配列分析の結果, このものは21個のアミノ酸からなり, これまでに報告されているいかなるfamilyにも属さない, 2組の分子内ジスルフィド結合を有する新しい生理活性ペプチドであることが判明したので, 我々はこれをEndothelinと命名した. Endothelinは一種のオータコイドとして血管の緊張調節に関与する重要な内因性因子の一つであると予想され, その失調は高血圧や血管彎縮性病変の病態生理の一端を担う可能性があるものと思われた.
ISSN:0015-5691