輸血後鉄過剰症の現状と問題点
再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの慢性造血不全による貧血では,鉄過剰状態により造血障害や肝機能障害をはじめとする様々な臓器障害をきたす.最近,鉄過剰症に対して経口鉄キレート剤のデフェラシロクスが開発され,鉄キレート療法の実施可能患者は確実に増加している.また,2008年7月に輸血後鉄過剰症の診療ガイドが発表され,輸血後鉄過剰症の診断基準と鉄キレート療法の開始基準が明確に示された. しかしながら,患者ごとの総赤血球輸血量を正確に把握する作業は煩雑かつ時間を要し,輸血後鉄過剰症の診断と鉄キレート療法の実施がガイドラインに準じて実施されているかについての検討は少ない.そこで今回,佐賀大学医学部附...
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Veröffentlicht in: | 日本輸血細胞治療学会誌 2013, Vol.59(1), pp.73-78 |
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Hauptverfasser: | , , , , , , , , , , , , , , , , , |
Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Schlagworte: | |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | 再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの慢性造血不全による貧血では,鉄過剰状態により造血障害や肝機能障害をはじめとする様々な臓器障害をきたす.最近,鉄過剰症に対して経口鉄キレート剤のデフェラシロクスが開発され,鉄キレート療法の実施可能患者は確実に増加している.また,2008年7月に輸血後鉄過剰症の診療ガイドが発表され,輸血後鉄過剰症の診断基準と鉄キレート療法の開始基準が明確に示された. しかしながら,患者ごとの総赤血球輸血量を正確に把握する作業は煩雑かつ時間を要し,輸血後鉄過剰症の診断と鉄キレート療法の実施がガイドラインに準じて実施されているかについての検討は少ない.そこで今回,佐賀大学医学部附属病院において,輸血後鉄過剰症の実態の把握と鉄キレート療法の実施状況を2007年1月から2011年12月までの5年間について調査を行ない,鉄過剰症の診療における問題点と改善点について検討した. 対象は2007年1月~2011年12月の間に年間総赤血球輸血量が20単位を超える全患者とし,臨床背景と血清フェリチン,鉄キレート療法実施状況について,カルテ記録に基づき調査,解析を行なった.20単位以上の輸血歴のある患者のうち,血液疾患と小児疾患患者において経過中に一度でも血清フェリチン値を測定した患者の割合は2007年から2011年にかけてそれぞれ,28%,45%,71%,66%,72%であった.また,フェリチン値が測定された症例においても,測定開始時点での血清フェリチン値の平均は2,500ng/mlを超えており,総赤血球輸血量の平均も40単位を超えている症例が半数に上っていた.2007年から5年間で15名がデフェラシロクスによるキレート療法を受けていた.輸血後鉄過剰症の診療ガイドの治療開始基準である,血清フェリチン値1,000ng/mlに近い値でキレート療法を開始された患者は4名のみで7名は,治療開始時に血清フェリチン値が2,000ng/mlを超えていた. 以上の結果は,輸血後鉄過剰症の診断基準となる,総赤血球輸血量の正確な把握,血清フェリチンの測定の時期,鉄キレート療法の開始基準の遵守においては,不十分な点が多いことが明らかになった.しかしながら,このような問題点が生じる理由のひとつに,現在の電子カルテや輸血管理システムが,臨床医の求める情報提供システムとして十分機能していないことが背景にあると考えられる. |
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ISSN: | 1881-3011 1883-0625 |
DOI: | 10.3925/jjtc.59.73 |