血漿交換療法10年の経験

九州大学附属病院では, 昭和54年に血漿交換を開始して10年が経過した. この間に経験した症例について10年をひとくぎりとしてまとめてみたので報告する. 対象:昭和54年6月から平成元年5月までの10年間に九州大学医学部附属病院輸血部において血漿交換療法を行った患者214名を調査の対象とした. 調査の内容は原疾患, 交換回数, 交換の方法, および副作用とした. 結果:原疾患, 患者数, および交換回数を表に示した. 使用した機種は遠心法が1,032回, 膜分離法が554回であった. また最近では血漿を分離した後に二次膜分離を行う方法や, 選択的吸着を行うリポ蛋白吸着・ビリルビン吸着・免疫グロ...

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Hauptverfasser: 稲葉頌一, 牧野茂義, 藤原一男, 赤司浩一, 大河内一雄, 松崎浩史, 岩橋徳二, 土屋善裕, 牟田耕一郎, 山本政弘, 神志那寿代, 轟木元友, 武市尚久, 池田公明, 白浜正文, 堀内孝彦
Format: Tagungsbericht
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:九州大学附属病院では, 昭和54年に血漿交換を開始して10年が経過した. この間に経験した症例について10年をひとくぎりとしてまとめてみたので報告する. 対象:昭和54年6月から平成元年5月までの10年間に九州大学医学部附属病院輸血部において血漿交換療法を行った患者214名を調査の対象とした. 調査の内容は原疾患, 交換回数, 交換の方法, および副作用とした. 結果:原疾患, 患者数, および交換回数を表に示した. 使用した機種は遠心法が1,032回, 膜分離法が554回であった. また最近では血漿を分離した後に二次膜分離を行う方法や, 選択的吸着を行うリポ蛋白吸着・ビリルビン吸着・免疫グロブリン吸着などが開発され57回施行されている. 副作用として問題になったものは重症のものとして肺水腫2例が見られた. この2例はともに, 術後の多臓器不全にともなう高ビリルビン血症であり同時に呼吸不全・腎不全を合併した重症で予後不良のものであった. 軽症のものとして凍結血漿に対するアレルギーによる尋麻疹・クエソ酸中毒による低カルシウム血症, 循環虚脱による吐き気, 嘔吐, 冷汗あるいは針を留置した場所の痛みなどがみられたがいずれも大きた問題とはならずに抗ヒスタミン剤・カルシウム製剤・昇圧剤などで対処可能であった. 1,586回の血漿交換での死亡事故は1例も経験しなかった. 考察:血漿交換療法は導入された直後は人工肝臓として劇症肝炎・薬物中毒・術後肝不全に対する唯一の緊急救命法として期待された. しかしながらその効果は不十分で凝固因子を補給し生存期間の延長を図るものであり, 積極的な肝臓再生をうながすものになりえないことが判明した. むしろ, 大量の置換液として凍結血漿を必要とすることによるコスト・パフォーマンスの悪さが指摘されるようになった. しかしながら, このような重症症例にたいする治療でありながら1例の死亡事故も起きていないことは血漿交換療法の技術的完成度の高さを示すものであった. 現在では肝疾患よりはむしろ血液粘度の低下を図る古典的なhyper viscosity sindromeに対するものとともに重症筋無力症などの自己免疫疾患, ギラン・バレー症候群のような神経疾患などに適応が限定されてきている. また選択的吸着剤の開発は今後の血漿交換の方向性を示していると考えられた.
ISSN:0546-1448