脳出血により観念失行を呈した患者に対する認知運動療法
高次脳機能障害の一つである失行症(apraxia)は, リハビリテーション(以下, リハビリ)の大きな阻害とはならず見逃されたまま退院することが多い. しかし本来その病態は複雑で未解明であり, 確立された治療がないのが現状である. 今回, 「観念失行(ideational apraxia)」を呈した脳出血患者に対し, 認知運動療法(Esereizio Terapcutico Conoscitivo)を適用したので報告する. 発症から9ヵ月経過している脳出血患者である. 年齢は80歳, 男性で左皮質下出血により観念失行を呈している. 主な臨床症状は, 明らかな麻痺はないが, 自発性低下, 感覚性...
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Veröffentlicht in: | 理学療法学 2004, Vol.31 (suppl-2.2), p.526-526 |
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Format: | Artikel |
Sprache: | jpn |
Online-Zugang: | Volltext |
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Zusammenfassung: | 高次脳機能障害の一つである失行症(apraxia)は, リハビリテーション(以下, リハビリ)の大きな阻害とはならず見逃されたまま退院することが多い. しかし本来その病態は複雑で未解明であり, 確立された治療がないのが現状である. 今回, 「観念失行(ideational apraxia)」を呈した脳出血患者に対し, 認知運動療法(Esereizio Terapcutico Conoscitivo)を適用したので報告する. 発症から9ヵ月経過している脳出血患者である. 年齢は80歳, 男性で左皮質下出血により観念失行を呈している. 主な臨床症状は, 明らかな麻痺はないが, 自発性低下, 感覚性失語が著明であった. MRIにおいて左頭頂葉から後頭葉にかけての広範囲な出血が認められた. 失行の検査では, 日用物品の操作(靴をはく, 傘をさす, スプーンの使用など)が極めて困難であり, 物品の認知や操作手順にも問題があった. 他院にて急性期のリハビリを施行され, 発症5ヵ月後にA病院へ転入院となった. 入院2日目から理学療法を開始した. 入院直後は環境への不適応, 感覚性失語症など重複する高次脳機能障害の問題から病態把握が困難だった. 起居移乗動作や歩行は可能であるが, 不安定な状態であった. 訓練の展開はセラピストの指示が入らず, 模倣もできない状況で困難を呈していたため認知運動療法を導入した. 「感覚の情報変換」を主体にまず「視覚下での左右空間マッチング」課題を施行した. 当初は困難であったが徐々に可能となり, 「触覚による物体認知」課題へと進めていった. 訓練開始後4ヵ月が経過した現在, 患者はセラピストの指示を理解し始め, 簡単な行為なら模倣可能なレベルヘと改善している. 転入院時, 日常生活活動(ADL)は車椅子中心で要介助レベルであったが, 現在は病棟から訓練室までは監視歩行にて移動可能である. 出血部位が頭頂葉から後頭葉と広範であることから, 肢節運動失行, 観念運動失行, 観念失行, 全ての出現が予測される. 山鳥(1985)によると「観念失行」を「使用失行」と位置づけ「物品使用に際しての困惑, 誤りによる障害」と定義しており, 本患者は「観念失行」の範疇であると判断した. 一般に, 失行症患者に対するリハビリは物品の識別や物品の操作行為の繰り返し(作業課題)にのみ終始し, 症状の改善をみることは少ない. 近年, イタリアの神経科医C. Perfettiは失行症を「異種感覚間の情報変換障害」であるとし, 認知運動療法を提唱している. 今回の患者の改善は, 施行した認知課題が「感覚の情報変換」の改善を促しているためと推察する. 訓練を施行していく中で「認知過程」と「運動過程」を惹起し, 調整機能の障害が改善され行為を生み出したと考える. このことは今後の失行症へのアプローチにとって重要な意味を持つ可能性があると示唆される. |
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ISSN: | 0289-3770 |