認知運動療法を行った顎関節症の一症例

(はじめに)顎関節症の保存的療法の一つの方法として理学療法が行われている. 今回, 顎関節症により関節雑音の症状を呈した患者に対する治療として認知運動療法を行った結果, 上下の歯列が最大の接触面となる咬頭嵌合位からの開閉口で関節雑音が消失した症例を経験したので報告する. (症例紹介)55才女性で一年程前から疼痛のない関節雑音を頻繁に自覚するようになった. H11.8.16より関節部の圧痛, 顔面鈍痛さらに咀嚼筋, 僧帽筋のスパズム, 不眠もみられるようになった. H11.8.25当院歯科受診し左関節円板の軽度の前方転位と下顎後退位がみられたことなどからIII型の顎関節症と診断された. (経過)...

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Veröffentlicht in:理学療法学 2000, Vol.27 (suppl-2), p.332-332
Hauptverfasser: 石原崇史, 大場かおり, 柴田健治, 出川和恵, 早川麻貴枝, 増田伸佳, 坂本和歌子, 大西弘子
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:(はじめに)顎関節症の保存的療法の一つの方法として理学療法が行われている. 今回, 顎関節症により関節雑音の症状を呈した患者に対する治療として認知運動療法を行った結果, 上下の歯列が最大の接触面となる咬頭嵌合位からの開閉口で関節雑音が消失した症例を経験したので報告する. (症例紹介)55才女性で一年程前から疼痛のない関節雑音を頻繁に自覚するようになった. H11.8.16より関節部の圧痛, 顔面鈍痛さらに咀嚼筋, 僧帽筋のスパズム, 不眠もみられるようになった. H11.8.25当院歯科受診し左関節円板の軽度の前方転位と下顎後退位がみられたことなどからIII型の顎関節症と診断された. (経過)H11.8.25歯科受診後直ちに下顎前進位で咬合可能となることを目的に認知運動療法を開始した. 上下の歯牙を接触させる事ができる数カ所で, 用意した木のスプーンを咬合させ重ねるスプーンの本数に変化を持たせて充てているスプーンの本数, つまり開口の程度を当てるという課題を訓練とした. この課題の正解率は80%であったが, 初回訓練後より下顎を前方に出し易くなったという訴えに加えて, 咀嚼筋, 僧帽筋のスパズムが軽減し睡眠をとれたという変化があった. あくびをする時大きな物を頬張る時など口を過開口することを控えるなどの生活指導も併せて行った結果, 咬頭嵌合位からの開閉口に伴う関節雑音の頻度が激減し, 3週間の訓練の後には開閉口に伴う関節雑音が消失する日がみられるようになった. また, 開口度が初診の35mmから37mmと開大した事からも顎関節の機能改善が確認された. (考察)関節雑音発生の直接的原因として関節円板と下顎頭のずれを問題にする事が多い. その発現機序として外側翼突筋の機能の不協調や咬頭嵌合位で関節円板が前方に, 下顎頭は後方に偏位することが挙げられる. 依田は無痛性の関節雑音症例がクローズドロックに移行しないとは言い切れない事, また音そのものをわずらわしく感じ治療を希望する患者が多い事などから雑音消失を目的に運動療法を行っている. ある一連の運動は知覚情報が規定する筋の出力様式によって決定され, それは知覚-運動の連鎖として記憶・学習されていることが確かめられている. 咀嚼など顎関節による運動も物体との間に生じる知覚状況に応じた運動記憶によって筋収縮, 関節運動を発現させていると考えられる. そこで言語教示や正常パターンヘの誘導によってではなく, 道具を使用する事で下顎頭が前方偏位する運動に伴う正常な知覚情報を患者自身に認知させ, その反応として出現する運動を知覚-運動の連鎖として記憶・学習させる訓練課題を考案し行った. 咀嚼筋, 僧帽筋のスパズムの消失, 咬頭嵌合位での関節雑音の消失は下顎頭が前方偏位した状態で行われる顎関節の運動を新たに記憶・学習した結果ではないかと考えられた.
ISSN:0289-3770