頚髄損傷者の寝返り動作における3次元動作解析

【はじめに】頚髄損傷者(以下頚損者と略す)の寝返り動作について検討した. 同じレベルでありながら, 寝返り可能者と, 不可能者がいることを, 我々は臨床上経験する. そこで, 両者の違いを比較した. 寝返り動作においては, 脊柱の可動性が重要なポイントになると考えられるが, 具体的に研究した報告はない. 今回, 磁気式3次元動作解析装置を使用し, 動作中の脊柱の動き(回旋)の分析を含め, 頚損者の寝返りに必要な要素を分析したので, 報告する. 【対象と方法】対象者：被検群の頚損者(C6完全損傷)19名と, 対照群の健常男性6名である. 頚損者で, 左右差のある者は両側について, その他の者は右側のみを計測した(計25例：可能例, 不可能例). 年齢は19～58歳(平均年齢29.3±10.3歳), 平均身長169.9±5.2cm, 平均体重51.9±11.2kgであった. 対照群の健常男性は, 寝返りに支障を及ぼすような整形疾患のない者とした(平均年齢26.5±6.2歳). 測定方法：脊柱の回旋角度の測定には, 3-SPACH-WIN(エムピージャパン)を使用した. 2個のセンサーを, TH1, L5 棘突起上に固定した. これは, 磁場内でのセンサーの動きを3次元で計測するシステムで, 背臥位で, センサーが隠れた時も, 計測可能である. また, 健常者6名と頚損者5名は, NORAXON社Myosystemにて, 筋電図をとった. 導出筋は, 健常者の場合, 両側の胸鎖乳突筋, 大胸筋, 上腕二頭筋, 腹斜筋. 頚損者は, 腹斜筋の代わりに上腕三頭脇とした. 得られたEMGより, 1秒間の積分値を算出し, 比較した. 健常群の寝返りは, (1)肩甲帯から(2)骨盤帯から(3)下肢を伸展させたまま上肢の振りのみを使って, の3パターンを行なった. それぞれの寝返り動作(背臥位→側臥位)を3回ずつ行い, 平均を出して比較した. 頚損者については, 通常している寝返り(不可能者は試み)の他, 脊柱の他動的ROM(回旋)も計測した. 【結果】1.健常者の寝返りタイプでは, 肩甲帯からの寝返りと上肢のみの寝返りで, それぞれ骨盤帯の寝返りよりも有意に回旋度が上昇した(p＜0.0001)2.健常者の寝返りタイプでは, 上肢のみの時, 両側大胸筋の積分筋電値が, 有意に上昇した(上側＞下側, p＜0.01). 3.寝返り可能群と, 不可能群では, 不可能群で, 動作中の脊柱回旋度に有意な低下が見られた. (可能者平均61.3±18.8°, 不可能者平均32.5±13.4°) 4.高齢者は, 寝返り困難になる傾向がみられた. (p＜0.01)5.身長・体重・体幹ROMとの有意な差が今回は認められなかった. 【考察】1.頚損者の寝返りには, 健常者よりも多くの体幹回旋度が要求される. 2.頚損者の寝返りには, 上側の大胸筋による上肢の振りのみならず, 下側の大胸筋による体幹のひきつけも重要である. C6レベルの中には大胸筋の筋力が弱い者もあり, それを補う手段が必要である. 3.体幹ROMは, ある程度の柔軟さが必要だが, 柔軟過ぎても, 上肢の振りに, 骨盤がついてこず, 動作が完了しない. 今回, 何例かそういうケースがあった. 適切なROM範囲の追究が今後の課題である.