最大歩行速度と体幹機能との関係

【はじめに】歩行速度の研究では, 麻痺側下肢筋力・立位バランスとの関係が検討され, 体幹機能についてはあまり検討されていない. しかし近年, 脳血管障害者の体幹機能の重要性を指摘している多くの報告がある. 歩行時の体幹機能は, (1)身体を抗重力位に保持させながらカウンターローテーションにより安定性を司ること(2)刻々と変化する支持基底面への安定した重心移動の制御を行う重要な因子と考えられる. そこで, 今回歩行と, 体幹機能との関係について検討し興味ある結果が得られたので報告する. 【対象と方法】対象は, 高次脳機能障害のない脳血管障害者33名(年齢:35-74歳)であった. 歩行は, 杖な...

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Veröffentlicht in:理学療法学 1999, Vol.26 (suppl-1), p.82-82
Hauptverfasser: 植村秀一, 大城康照, 榎本博之, 片塩信哉, 佐野 華, 濱 裕美
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:【はじめに】歩行速度の研究では, 麻痺側下肢筋力・立位バランスとの関係が検討され, 体幹機能についてはあまり検討されていない. しかし近年, 脳血管障害者の体幹機能の重要性を指摘している多くの報告がある. 歩行時の体幹機能は, (1)身体を抗重力位に保持させながらカウンターローテーションにより安定性を司ること(2)刻々と変化する支持基底面への安定した重心移動の制御を行う重要な因子と考えられる. そこで, 今回歩行と, 体幹機能との関係について検討し興味ある結果が得られたので報告する. 【対象と方法】対象は, 高次脳機能障害のない脳血管障害者33名(年齢:35-74歳)であった. 歩行は, 杖なしでの最大歩行速度(以下:MWS)を測定した. 体幹機能は, 重心動揺計を利用し, その上に背もたれのない60cm椅子を設置した足底離床椅座位の姿勢で, 動的座位バランスを測定した. 動的座位バランスの課題は, 前後方向・左右方向の各方向別に1周期8secのリズムで1分間連続して随意的に最大傾斜させた. 重心移動の指標としては, 前後方向時の最大重心移動距離(以下:YD)と, 左右方向時の最大重心移動距離(以下:XD)とした. また, 各課題別に, 目的方向への最大重心移動距離と, それに対する垂直方向への最大重心移動距離の動揺率(以下:前後X/YD, 左右Y/XD)も指標に用いた. つまり, この値は, 目的方向に重心移動した時の垂直方向への動揺率である. 以上のような指標とMWSとの検討においては, Spearmanの順位相関係数を用い危険率5%未満を有意とした. 【結果】(1)MWSとXD・YDの間には, 有意水準1%で高い負の相関が認められた. 特に, 前後方向時の最大重心移動距離が大きいほどMWSは速かった. (2)MWSと前後X/YD・左右Y/XDの間には, 正の相関が認められた. 特に, 左右方向課題時の最大重心移動距離の動揺率が低いほどMWSは速かった. さらに, 重心軌跡図から, MWSが遅いものは, 左右方向課題の麻痺側方向への重心移動時に, 前方か後方へ一定のパターンを取らない軌跡を描いていた. 【考察】今回の実験結果から, 体幹機能の良好な者ほどMWSが速かった. これは, 四肢の中枢部である体幹が空間で保持・安定していることにより, 上下肢の活動が歩行時に有効に機能した結果と考えられる. XDに比べYDでMWSが速かったのは, 歩行は常に前方へ重心移動している結果と考えられる. すなわち, 前方への重心移動距離が大きいことは, 体幹機能が立脚後期の前方への下肢推進力を有効に活用できた結果と考えられる. また, 前後X/YDに比べ左右Y/XDでMWSが速かった. さらに, 左右方向課題時の最大重心移動距離の動揺率は, 麻痺側への重心移動時に大きかった. 言い換えれば, 麻痺側方向への重心移動は, 体幹の代償運動が出現しやすいことを示していた. このことは, 代償運動が, 立位である歩行動作の体幹にも同様に強く影響していた結果と推察される. 以上の結果から, 体幹機能が歩行速度の決定因子の一つとなることを示唆し, 歩行獲得後も体幹機能を主体としたアプローチが重要であることを示唆するものであった.
ISSN:0289-3770