治療経過中に強い恐怖感を訴えたが1年で歩行に至った片麻痺の一症例の検討

【はじめに】今回, 初期から転倒に対する恐怖感の強い症例が一年かけて歩行に至った例を経験したので, 検討を加え報告する. 【症例紹介】64歳女性, 診断名は脳塞栓症, 左片麻痺, 失認(左視空間無視). 病歴はH9.7.6.朝, 倒れているのを夫が発見した. 入院時所見は, (1)意識障害JCSII-10~20, (2)左片麻痺, (3)右共同偏視, (4)健側過緊張で, CTは中大脳脈流域の広範なLDAがあった. 理学療法はH9.7.16.に処方された. 【理学療法経過】開始時評価 意識障害(JCSII-10)があった. 左片麻痺は全体的に低緊張で痙性は殆どなかった. 基本動作は全て不可能で...

Ausführliche Beschreibung

Gespeichert in:
Bibliographische Detailangaben
Veröffentlicht in:理学療法学 1999, Vol.26 (suppl-1), p.22-22
Hauptverfasser: 多々納善広, 上田正樹, 米村一幸, 角 博行, 渡辺保裕
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
Tags: Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
Beschreibung
Zusammenfassung:【はじめに】今回, 初期から転倒に対する恐怖感の強い症例が一年かけて歩行に至った例を経験したので, 検討を加え報告する. 【症例紹介】64歳女性, 診断名は脳塞栓症, 左片麻痺, 失認(左視空間無視). 病歴はH9.7.6.朝, 倒れているのを夫が発見した. 入院時所見は, (1)意識障害JCSII-10~20, (2)左片麻痺, (3)右共同偏視, (4)健側過緊張で, CTは中大脳脈流域の広範なLDAがあった. 理学療法はH9.7.16.に処方された. 【理学療法経過】開始時評価 意識障害(JCSII-10)があった. 左片麻痺は全体的に低緊張で痙性は殆どなかった. 基本動作は全て不可能であった. 介助下で健側側臥位にした時, 前方に落ちるような恐怖感を訴え, 健側上下肢で抵抗した. 座位では右ばかりを見ていた. 2週後, 食事が始まったが左側を無視していた. 1.5ヵ月後, 端座位で健側上肢挙上が短時間ながら可能になった. 表在・深部感覚は鈍麻であった. 5.5ヵ月後, 基本動作は徐々に回復し, 端座位までは自立, 立ち上がり・立位保持軽度介助, 治療に於て介助歩行を積極的に導入した. 7.5ヵ月後, 立位で恐怖感の訴えが多くなった. 8.5ヵ月後, 動作レべルで大きな変化がなかったので, 治療では患側下肢に, より体重がかかる場面を多くしたが, さらに恐怖感が増す結果となった. 9.5ヵ月後, 廊下の手すりなどを利用した歩行練習を行うようになった. 12.5ヵ月後, ベッド周囲でのADL自立, 屋内監視歩行, 屋外軽度介助歩行にて退院した. 【検討】本症例は運動障害に感覚障害や左視空間失認を伴った症例で, 初期から転倒への恐怖感が強く, 健側側臥位でべッドから落ちるような強い恐怖感を訴えた. そこで, 健側の触-運動覚を利用し支持面を意識させて, 余分な活動を抑制しながら健側への寝返りや起き上がりをゆっくりと行い, 健側への体重移動を学習させた. 同時に患側からの起き上がりも行い, 患側での体重負荷も経験させた. 結果, 患側での体重支持性が向上し, 端座位が可能となった. 立位では患側下肢の支持性向上が歩行獲得につながると考え, 患側での体重負荷を最優先に治療をすすめた. しかし, 患側下肢での突っ張りが強まり転倒に対する恐怖感を再び強める結果となった. そこで本症例の場合, 坐位から立位への姿勢変化は, 支持面が狭くなる中で, 支持面からの情報を大きくしようとして健側下肢を突っ張るので, 支持性のない患側下肢で支えきれずに立位が困難となり, 再び転倒に対する恐怖感が強まってきたと考えた. そこで恐怖感を軽減できるような環境設定を工夫し, 治療をすすめた. 具体的には廊下の手摺りや壁面などに触れて安心させ, 歩行させた. これらにより症例の恐怖感が減少し, 健側の余分な活動が抑制され両側への体重負荷が徐々に可能となり, 歩行に至ったと考えた. 【まとめ】本症例のように恐怖感が強い場合, 直接触れて安心できる情報を与えられるような環境設定の中で, 治療をすすめていく事が重要であると考えられた.
ISSN:0289-3770