高拍出状態が心膜液貯留により隠蔽されたと考えられる脚気心の1例

症例は58歳女性, 労作時呼吸困難と下腿浮腫を主訴に入院した. 心電図で低電位差, I・II・aV_F ・V_4~6 のST上昇, V_1~3 の陰性T波を, 胸部X線写真で心拡大と肺うっ血を, 心エコー図で全周性に中等量の心膜液貯留を, 胸部CTで心膜液と両側胸水貯留を認めた. 右心カテーテル検査では肺毛細管楔入圧(PCW)19mmHg, 肺動脈圧(PA)50/30mmHg, 右房圧(RA)16mmHgと心内圧の上昇を認めたが, 心係数(CI)は3.2リットル/min/平方メートル, 全末梢血管抵抗(TPVR)は1067dynes・sec・cm^-5 と正常であった. 心膜穿刺・胸膜穿刺を施...

Ausführliche Beschreibung

Gespeichert in:
Bibliographische Detailangaben
Veröffentlicht in:心臓 1996-11, Vol.28 (11), p.935-941
Hauptverfasser: 荒木勉, 斉藤元泰, 中島昭勝, 瀧本弘明, 東福要平
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
Tags: Tag hinzufügen
Keine Tags, Fügen Sie den ersten Tag hinzu!
Beschreibung
Zusammenfassung:症例は58歳女性, 労作時呼吸困難と下腿浮腫を主訴に入院した. 心電図で低電位差, I・II・aV_F ・V_4~6 のST上昇, V_1~3 の陰性T波を, 胸部X線写真で心拡大と肺うっ血を, 心エコー図で全周性に中等量の心膜液貯留を, 胸部CTで心膜液と両側胸水貯留を認めた. 右心カテーテル検査では肺毛細管楔入圧(PCW)19mmHg, 肺動脈圧(PA)50/30mmHg, 右房圧(RA)16mmHgと心内圧の上昇を認めたが, 心係数(CI)は3.2リットル/min/平方メートル, 全末梢血管抵抗(TPVR)は1067dynes・sec・cm^-5 と正常であった. 心膜穿刺・胸膜穿刺を施行した結果, 心膜液は浸出性, 胸水は漏出性と判定され, 心膜炎(病因不明)による心膜液貯留と判断した. 約150mlの心膜液を穿刺排液したところ, PCW9mmHg,PA38/14mmHg,RA5mmHgと心内圧は低下, CIは4.8リットル/min/平方メートルと増加, TPVRは719dynes・sec・cm^-5 と低下した. 同時に下腿の浮腫や胸水は消失したが, 同時期より両下肢末梢に強い筋力低下と知覚鈍麻が出現し, 起立歩行不能状態となった. 下腿の筋萎縮, 膝蓋腱反射の消失, 神経伝導速度の低下より末梢性多発神経炎と診断し, その病因として米中心の特異な食生活, 高拍出状態, 血中ビタミンB_1 の低値(8.3ng/ml)から脚気と診断した. 以後ビタミンB_1 投与のみにて経過を観察したところ, 神経学的所見の改善とともに心電図・胸部X線写真の所見も改善し, 6週間後に心膜液の消失を確認した. 退院時の冠動脈造影・左室造影・心内圧(PCW6mmHg,PA22/7mmHg,RA3mmHg)はともに正常で, CI2.7リットル/min/平方メートルと高拍出状態も改善し, TPVRは1776dynes・sec・cm^-5 と上昇した. 本症例の特徴は血行動態上, 脚気心に伴う高拍出状態が心膜液貯留により隠蔽され, 心膜穿刺により顕在化し, ビタミンB_1 投与により正常化したと考えられる点であり, 興味深い症例と思われたので報告した.
ISSN:0586-4488