トンネル掘削残土の渓谷への埋め立てが渓流水質に及ぼす影響

岩石中に硫化鉄鉱物を含む岩盤にトンネルを掘削し,残土を周辺の渓谷に埋め立てると,硫化鉱物が酸素を含んだ降水や地下水と接触し,酸化・分解することにより硫酸酸性浸出水が発生し,生物の斃死や有害金属類の流出などにより周辺環境に悪影響を及ぼす可能性がある。掘削残土の中に酸性化を緩衝する能力を有する鉱物が含まれる場合は,中和作用により浸出水のpHの低下が抑制されるため,浸出水のpHは,硫化鉱物の酸化により生ずる硫酸量と,緩衝鉱物の分解に消費される硫酸量の兼ね合いによって決まると考えられる。本研究では,トンネル掘削残土の埋め立てによる渓流水の溶存物質濃度の長期的な変化を明らかにするために,トンネル掘削残土...

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Veröffentlicht in:東京大学農学部演習林報告 2012-02 (126), p.59-80
Hauptverfasser: 五名, 美江, 蔵治, 光一郎, 春田, 泰次, 大村, 和也, 千嶋, 武, 才木, 道雄, 齋藤, 俊浩
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:岩石中に硫化鉄鉱物を含む岩盤にトンネルを掘削し,残土を周辺の渓谷に埋め立てると,硫化鉱物が酸素を含んだ降水や地下水と接触し,酸化・分解することにより硫酸酸性浸出水が発生し,生物の斃死や有害金属類の流出などにより周辺環境に悪影響を及ぼす可能性がある。掘削残土の中に酸性化を緩衝する能力を有する鉱物が含まれる場合は,中和作用により浸出水のpHの低下が抑制されるため,浸出水のpHは,硫化鉱物の酸化により生ずる硫酸量と,緩衝鉱物の分解に消費される硫酸量の兼ね合いによって決まると考えられる。本研究では,トンネル掘削残土の埋め立てによる渓流水の溶存物質濃度の長期的な変化を明らかにするために,トンネル掘削残土の埋め立て区間の直上流,直下流で,埋め立て前後11年間の渓流水質モニタリングのデータ(東京大学農学部附属演習林,1998)と、その後11年間、著者らが引き続いて行ったモニタリングのデータを合わせて検討した。その結果,1993~94年に埋め立てが終了した後16年が経過しても,埋め立てによる渓流水質への影響は続いていた。埋め立て区間の直下流ではSO4 2-,Ca2+,アルカリ度が有意に高い状態が続いているが,渓流水のpHの低下はみられず,Ca2+を主とするカチオンが,S含有鉱物の分解によって生じた硫酸を中和し,pHを中性に保ったと考えられる。埋め立てがCa2+以外のカチオン濃度を増加させた期間は3~5年間にとどまり,SiO2には埋め立ての影響がなかった。影響の継続期間については,ワサビ沢では31年,トウバク沢では17年~20年と試算された。
ISSN:0371-6007