中池見(福井県)における耕作放棄湿田の植生と絶滅危惧植物の動態

1.中池見は面積約25haの山間盆地で、江戸時代に開田されて全域が湿田地帯となった。大規模な圃場整備が困難であったため、伝統的な湿田と絶滅危惧種を含む湿田特有の多様な植物相が保たれていたが、近年は耕作放棄が進んでいた。2.中池見の植生の変動を把握するため、1997?2000年撮影の空中写真と現地踏査により植生図を作成し、1994年の植生図ともあわせて検討した。また絶滅危惧種の生育状況を把握するため、生育地の植生の継続調査を実施した。さらに絶滅危惧種への耕起の影響を確認するため、1997年に耕起試験区を設けて植生調査を行った。3.1994?1997年には耕作田が減少し、耕作放棄水田の植物群落が増...

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Veröffentlicht in:Nihon Seitai Gakkai shi 2003/12/25, Vol.53(3), pp.197-217
Hauptverfasser: 下田, 路子, 中本, 学
Format: Artikel
Sprache:jpn
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Beschreibung
Zusammenfassung:1.中池見は面積約25haの山間盆地で、江戸時代に開田されて全域が湿田地帯となった。大規模な圃場整備が困難であったため、伝統的な湿田と絶滅危惧種を含む湿田特有の多様な植物相が保たれていたが、近年は耕作放棄が進んでいた。2.中池見の植生の変動を把握するため、1997?2000年撮影の空中写真と現地踏査により植生図を作成し、1994年の植生図ともあわせて検討した。また絶滅危惧種の生育状況を把握するため、生育地の植生の継続調査を実施した。さらに絶滅危惧種への耕起の影響を確認するため、1997年に耕起試験区を設けて植生調査を行った。3.1994?1997年には耕作田が減少し、耕作放棄水田の植物群落が増加した。1998年以降は耕作放棄水田でヨシ・マコモ・ヒメガマが優占する大型湿生草本群落と小型湿生草本群落が広い面積を占め、また乾生のセイタカアワダチソウ群落とつる植物群落の面積増加が著しかった。4.耕作放棄後は、小型湿生草本群落から大型湿生草本群落への植生変化が主要な植生変動パターンであり、耕作停止後2?5年で大型湿生草本群落の侵入と拡大が起こった。小型湿生草本群落の状態が続く水田、大型湿生草本群落から小型湿生草本群落への変化、湿生草本群落から非湿生草本群落への変化も一部の水田で確認された。5.絶滅危惧種の生育地の継続調査地点では、放棄後の時間経過とともに、大型湿生草本が主要な群落構成種となった。放棄1年目に生育した小型の絶滅危惧種は、放棄2年目では確認されなかった。より大型の多年生草本は、放棄後の年数が経過した水田でも生育していた。耕起試験区では、耕起の有無で植生が異なり、耕起区の方により多くの絶滅危惧種が生育した。6.耕作放棄水田の植生には、放棄後の時間経過と生育地の水分条件が大きな影響を与えている。局地的な環境条件の変化、各年の気象条件、周囲の植生も、植生変動の一因となっている可能性が認められた。7.中池見の多様な植物相は、伝統的な湿田環境により維持されてきたと考えられる。耕作田や放棄直後の水田では除草剤や埋土種子集団、維持管理を行っている場所では管理作業の種類も植物に影響を与えている。8.中池見の湿田環境に特有な植物相・植生を保全するには維持管理作業が必要であるが、保全の目的や管理体制が検討課題となっている。
ISSN:0021-5007
2424-127X
DOI:10.18960/seitai.53.3_197