第30回日本コミュニケーション障害学会学術講演会特集:一般演題座長記‐A群:失語症1

本群は, 失語症の症状ならびに治療をめぐって, 実験的研究から臨床研究まで7題の多彩な報告が発表された. 演題A-1(吉田ら)は, 韻律構造が正しく分節音のみを誤る症例にSALAの復唱課題を実施し, 認知神経心理学の立場から音韻論的考察を加えた. 座長は, 比較的自動的に発語される復唱に対し, 非自動的な呼称においては韻律の崩れや音の探索行動はどうであったか, また句レベルでは韻律は保たれていたか, 質問した. 演者は, 喚語困難が強く, 句レベルの発話は困難であったが, 可能な語では韻律は正しかったと回答した. 演題A-2(今村)は, 多発性脳梗塞で記憶障害の進んでいく慢性期の高齢失語症者に...

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Veröffentlicht in:コミュニケーション障害学 2004, Vol.21 (3), p.221-221
Hauptverfasser: 大澤富美子, 今村恵津子
Format: Artikel
Sprache:jpn
Online-Zugang:Volltext
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Beschreibung
Zusammenfassung:本群は, 失語症の症状ならびに治療をめぐって, 実験的研究から臨床研究まで7題の多彩な報告が発表された. 演題A-1(吉田ら)は, 韻律構造が正しく分節音のみを誤る症例にSALAの復唱課題を実施し, 認知神経心理学の立場から音韻論的考察を加えた. 座長は, 比較的自動的に発語される復唱に対し, 非自動的な呼称においては韻律の崩れや音の探索行動はどうであったか, また句レベルでは韻律は保たれていたか, 質問した. 演者は, 喚語困難が強く, 句レベルの発話は困難であったが, 可能な語では韻律は正しかったと回答した. 演題A-2(今村)は, 多発性脳梗塞で記憶障害の進んでいく慢性期の高齢失語症者に対し, 長期記憶に働きかけて発話を引き出すために, 回想法を行った. 杉本(コミュニケーション, アシスト, ネットワーク)は, 感情失禁のある例に回想法は可能かとたずね, 演者は, グループで経験した例では, 感情が高まって発話が促進されたものの, 心理的ダメージはなかったと答えた. 演題A-3(杉山ら)は, 失語症者の動詞産出に関わる刺激要因として, 動画と静止画とで差があるかを健常者のデータをもとに検討した. 座長は, 動画中の一点で止めた静止画と, 動作を強調して描いた従来の動作絵カードとで, わかりやすさに差がないかをまず検討するべきではないかと指摘したのに対し, 演者は, 今後の課題であると答えた. 演題A-4(上田ら)は, 家族とともに訓練用に写真カードを作成した経験から, 失語症者のための教材として工夫すべきことを検討した. 北野(静岡県立こども病院)は, 小児にも使用したいが, 念入りに作ったカードの汎用性はあるかをたずねた. 演者は障害やタイプによって適用性があるとは限らないので, そのつど工夫を重ねたいと答えた. また, 共同作業の過程で家族の失語症への理解が深まった経験を具体的にきいた座長に対し, 演者は, 言語面のみならず, 認知や注意力の問題に気づいてもらえたと答えた. 演題A-5(薦田ら)は, 感情的プロソディが失語症者の聴覚的理解を促進するか, また負荷条件で感情的プロソディが有効な手がかりとなるかを検討した. 負荷条件として設定した絵の先行提示時間を変えるだけで, すでに差がでる可能性があるのではないかと指摘した吉野(筑波大学)に対し, 演者は, 提示条件を変えた上でプロソディ条件を変えたことにより, このような結果が出たと答えた. ヴェルボトナル法などとの関連で, これを訓練に応用する方向性をたずねた座長に対し, 演者は, 経験は浅いがプロソディの要素は訓練において重要と思うと答えた. 演題A-6(松本ら)は, 聞き手の失語症についての知識の有無が, 失語症者との会話にどのような影響を及ぼすかを失語症講座の前後で比較した. 座長は, 失語症者と学生とのペアは, 講座前後で同じであったかを確認し, その場合, 慣れの要因で発話が促進されることはなかったかとたずねた. 演者は, 性別や趣味の一致により会話のふくらみ具合が異なったため, 今後何らかの統制が必要であると答えた. 演題A-7(衛藤ら)は, 後天性小児失語症児の構文の理解, 産生能力について小児用構文検査を考案し, 健常児のデータをもとに比較, 検討した. 今後, 発症時年齢を考慮したデータを取るのかとの座長の確認に対して, 演者は, 発症時年齢を考慮し, かつさまざまなタイプの小児失語症のデータを取りたいと回答した. 本群で発表された研究は, いずれも最近の関心の的になっているトピックを扱い, かつ具体的で身近な臨床に直結する方法を提示している. フロアからの質問, 討議が少なかったのが残念で, 今後, いろいろな角度からこうした言語学的, 認知神経心理学的, 心理社会的基礎に根ざした臨床研究が発展し, かつ学会参加者と切嵯琢磨し合うことを期待したい.
ISSN:1347-8451